2014.01.17
台湾の廃棄物回収制度と 廃プラスチック回収・処理の実情について ~回収事業者の視点から~ (2013年12月 講演会開催)
台湾では、一般消費者・回収商・地方政府(地方清潔隊)および回収基金の四者協力の下、1997年4月から「資源回収四合一制度」がスタートし、全国統一で資源回収、ごみ減量が進められています。廃プラスチックは、 例えばボトル類を マテリアルリサイクル(以下MRと表示) と位置付ける一方、 フィルム類は可燃ゴミとして焼却対象とするなど、非常に分かり易い仕組みとなっています。 顔宏任氏は、日本への留学後、台湾でPETボトルを中心とする廃プラスチック再資源化事業に取り組む遠東新世紀社に入社し、 その後長年にわたり実務経験を積まれ、台湾の廃プラスチック業界の実務に精通しておられます。 今回、顔氏をお迎えし、資源回収四合一制度と廃プラスチック処理の実情についてお話をしていただきました。 下記はその講演要旨です。
顔 宏任氏 プロフィール
1979年台湾台中生まれ。2001年台湾国立中山大学卒業。2003年アジア化学繊維大手メーカー「遠東紡織(現:遠東新世紀)」入社。 PET樹脂、プリフォームおよびPETシートなどの国際貿易を経験。2008~2011年上海駐在。2011年本社勤務、 日本PETリサイクル新事業のプロジェクトマネージャー担当。 2013年9月から新事業「遠東石塚グリーンペット株式会社」の営業本部長として日本に駐在中。
1.台湾における廃棄物回収制度 <ごみの分類方法と回収方法>
台湾のごみは、①資源物(資源ごみ)、②生ごみ、③一般ごみの3種類に分類されています。「資源物」は、古紙、金属缶、各種素材のボトル容器、廃電池、廃家電などで、消費者はこれらを廃棄する際には資源回収車に出さねばなりません。粗大ごみなどは回収商に連絡して回収してもらう必要があります。「生ごみ」は、回収車の生ごみ収集箱に入れます。資源物、生ごみに分類されない残りは全て「一般ごみ」となり、これも回収車に持っていってもらいます。資源物、一般ごみを出す場合、台北市と新北市では1枚5台湾ドル(1台湾ドル=3.5円として邦貨約20円)で購入したプラスチック製ごみ専用袋を使用しますが、他地域では水道料金に処理費用が含まれているので、適当な袋に入れて出すことができます。生ごみは、飼料あるいは肥料にリサイクルされますが、一般ごみはほとんどが焼却されています。
台北市のごみ回収では、決まった時間に2台の回収車が来ます(下図参照)。1台目は一般ごみの回収車で、市民はごみ専用袋に入れて出します。プラスチックフィルムはこちらに投入します。2台目は資源物と生ごみの回収車です(資源物専用の回収車が3台目として来ることもあります)。資源物は曜日によって回収物が変わります。例えば、月曜日は古紙、火曜日と木曜日はPETボトル、金曜日は金属というように分類されています。2台目の回収車には青、赤のバケツとカゴが積まれており、生ごみは、豚の飼料として利用できるものは青のバケツに、飼料にならないため肥料とするものは赤のバケツに入れます。カゴは生ごみを入れてきたプラスチック袋などを入れるためのものです。
台湾では、このように回収車が資源物を集めてくれることになっていますが、実際のところ、資源物を回収車に出す人はそう多くはありません。台湾では、資源物を買い取る回収商が街のあちこちにいて資源物を買い取ってくれるので、住民はそこでお金に換えています。また回収車には、たいてい小規模の回収商が付いて回っており、持ち込まれたものの中に資源物があればそれを引き取ってくれます。地方政府としても資源物の選別・処理を自らしなくて済むので、回収商が資源物を引き取ることを認めています。回収商はあらゆる資源物をいつでも有償で回収してくれるので、市民には重宝な存在です。
台湾は小さな島なので全国統一の方法でごみ収集をし、いつ、どのようなものを集めるのかが決まっています。 本日は主にプラスチックを中心にお話しさせていただきます。
<廃棄物回収のための「資源四合一制度」>
1974年に「廃棄物清理法(=廃棄物処理法)」ができる前はプラスチックも家庭ごみもひとくくりのまま「ごみ」として処理されていましたが、この法律ができて初めて「ごみの分類」という考え方が生まれ、プラスチックは資源物として位置付けられることになりました。そのような中、焼却処理されるごみの量が急増し、1980年代には、埋め立て量を上回るまでになりました。そこで政府は、資源物の更なるリサイクルを進めるため、87年に「資源四合一回収計画」を開始しました。これが大きな節目となって、市民もPETボトルや金属などの資源物の分別を意識するようになりました。資源四合一回収計画の下、資源回収がメインになったのは90年代です。台湾のごみ回収システムである「資源四合一制度」は、製品・容器の製造業者、販売業者あるいはそれらの輸入業者が「回収基金」を支出し、一般消費者、回収商、市町村の地方清潔隊などリサイクルに関わる者に基金を還元する仕組みです。しかし、これは関係者にお金を還元するのが目的ではなく、積極的にリサイクルに参加してもらうことを意図してスタートさせたものです。
一般消費者は、資源物を直接かあるいは地域や所属先単位の組織で集めて回収商に販売できます。回収商は、個人・零細な規模の者から、中規模、大規模の者、特定の資源物専業の者、あらゆる資源物を扱う者と様々です。回収商は、一般消費者が集めた資源物や、市町村で集まった資源物を買い取って分類し、販売してお金を得ます。買い取り資金は、回収商がMR業者へ有価で販売する場合は、全て回収基金で賄います。
ごみは回収車へ出すほか、資源物を回収する箱がスーパーなどにも置かれていますのでそこに出すこともできます。また、引っ越しの際にはたくさんの資源物が出ますが、自分でまとめて回収商へ持っていけば買い取ってもらえます。台湾では、資源四合一制度の浸透により回収気運が高まり、資源物回収率伸長の一因となっています。
<環境保護署と回収基金の運営体制>
環境保護署は、日本の環境省のような位置付けにあります。環境保護署は「資源回収管理基金管理委員会」を設けています。この委員会は資源物の製造業者、販売業者、輸入業者から資源物の使用量と賦課レートに応じて徴収した費用(使用量は回収基金に自主申告)を「資源回収管理基金」として管理しており、ここから一次処理の回収再生工場に補助金が交付されます。この補助金はこの再生工場と資源物を取引する大中小の回収商に順次還元され、最終的に一般消費者、学校、民間団体に還流していくことになります。なお補助金の適正を担保するため、監査認証団体が、素材が台湾のものか、認定されている素材か、認定されている工場で処理されているかなどを随時審査しています。
回収基金の年間徴収総額は近年70億台湾ドル(1台湾ドル=3.5円として邦貨約250億円)前後で推移しています。使用量に対する賦課レートは年1回見直され、回収基金のレート審議委員会を通して基金支出企業と回収商が交渉して決めることになっています。費用の徴収対象を産業分野別で見てみると、廃一般部品および容器類で37%を占めていますので、徴収金額70億台湾ドルの4割すなわち30億台湾ドル(1台湾ドル=3.5円として邦貨約100億円)が廃一般部品および容器類からの徴収額ということになります。
<プラスチック類包装品に係る制限政策とごみ処理量の概要>
環境保護署は「資源回収管理基金管理委員会」を設け、リサイクルの促進とプラスチック類のごみ減少を目的として、2002年から様々な政策をとってきました。具体的には02年に「レジ袋の使用制限」を開始し、それまで薄いレジ袋は無償で提供されていましたが、プラスチック製の厚さ0.06㎜以上のレジ袋はスーパーとコンビニでは基本的に有償となりました。また、07年3月から「プラスチック製トレーの使用制限」が始まり、石油由来のプラスチックトレーはコンビニなどのチェーン店では使えないことになりました。これもプラスチック使用量を減らすためです。一方、植物由来のものは対象外とされたので、マクドナルドやケンタッキーなどではコップやトレーを全部ポリ乳酸(PLA)材質のものに置き換えてしまいました。このように大規模なファストフードチェーン店では石油由来プラスチックをほとんど使わなくなっています。環境保護署は、ポリ乳酸は自然に分解され環境保護面で良いとしてポリ乳酸製品の使用を推薦していますが、この点については、埋め立て処分されるものではないので生分解性である必要性がないことから、プラスチック業界は問題視しています。
台湾の「ごみ排出量」(ごみ回収再利用量+最終処理場へのごみ運搬量)は年間7~800万トン程度で推移しています。資源四合一制度実施以降、排出量の増減は少ないのですが、資源物として回収されるものが増えたことにより、ごみ運搬量は年々減少しています。2002年のごみ回収再利用量中の資源ごみの回収量は約120万トンでしたが、11年には倍以上の300万トンを超えるまでになっており、そのうちの18万トンがプラスチックでした。また、1人当たり1日のごみ運搬量は、ピークの1998年は1,140gでしたが、2011年では427gまで減少しました。制度開始以降「ごみ回収再生利用量」(粗大ごみ回収再利用量+生ごみ回収再生利用量+資源ごみ回収量)は年々増加し、11年にはごみ排出量の52%が回収・リサイクルされるまでになっています。
「資源四合一制度」の構築と廃棄物清理法以降の一連の法令の整備(例:「資源再利用法」施行(1991))により、台湾ではごみの構成と資源物の内容が大きく変化しました。プラスチック容器類のリサイクル量を見てみると、年々右肩上がりに増加し、2010年19.4万トン、11年19.6万トンと年間20万トンの大台に近づいています。PETについては、このうちの10万トン前後とほぼ半分の割合となっています。なお、PVC(塩ビ)は10年前に食用容器に使うことが禁止されてから大幅に減少し、現在、容器の大半はPETとPP/PEとなっています。
リサイクルプラスチックは再生ペレットになり、様々な樹脂に成形されます。台湾ではMRがほとんどです。 なお、台湾では元々法律で再生プラスチックの食品用途使用が規制されているので、PETボトルの再生ペレットから作られたPETボトルは国内では、 国内ではシャンプーのボトルなどの非食品向けとなりますが、量は増加傾向にあります。
2.台湾における廃プラスチック回収・処理の実情 <PETボトル産業と回収までの経緯>
1974年、まだPETボトルがなかった時代に「廃棄物清理法」が施行され、多くの資源物の回収と分類、処理が法律で定められました。また資源回収管理基金管理委員会が置かれたことで、 廃棄物の回収方法がより具体的に定められるようになりました。PET類の回収で補助金を得るには細かいルールに従う必要があるため、マニュアルブックがリサイクル一次処理業者に配布されています。
台湾でPETボトルが造られるようになったのは87年で、初めて製造したのは私どもの会社の「遠東紡織(=現・遠東新世紀)」です。それ以降PETボトルが市場に出回るようになりましたが、当初国内には処理できる者がいない状況だったので、89年、PETボトルメーカーの遠東紡織と新光合繊の2社でPETボトル洗浄ライン(PETフレーク製造)を目的とする合弁会社(台湾資源再生会社(TRC))を設立しました。この間、清涼飲料協会も自主的にプラスチックボトルの回収基金会を設けました。これは現在の資源回収管理基金管理委員会とは異なり、その仕組みは、飲料協会が自主的にお金を集めてTRCに渡すというものです。そして98年に環境保護署が「資源回収管理基金管理委員会」を設立したことに伴い、このプラスチックの回収基金会は、「資源回収管理基金管理委員会」に統合されることになりました。その後、PET製造大手の黒松(Hey-Song)が社会的な責任を果たしたいとの意向の下TRCに資本参加してきました。しかしながら収益が上がらないことを理由に、06年に新光合繊と黒松が離脱してしまったためTRCは遠東紡織の100%子会社となりました。
07年1月、遠東新世紀はTRCのラインを大幅に改造して、よりきれいなPETがつくれる洗浄ラインを設けました。子会社の亜東創新(ORD)は台湾で初のボトルtoボトル製造ラインを導入し、ボトルtoボトル樹脂の製造を開始しました。主に輸出用として使われています。なおTRCは、同年ORDの子会社になりました。
日本では12年、「食品用容器包装への再生プラスチック材料の使用に関するガイドライン」が発表されましたが、台湾の食品安全署もこのガイドラインに注目しています。日本でボトルtoボトルが食品向けで認められるのなら台湾で使ってもよいのではと、食品衛生安全法の改定が検討されています。
<補助金対象のPETボトルのリサイクルに関する一次処理業者の認定、審査>
一次処理工場が回収廃棄物で補助金をもらうには、一次処理業者の認定を受けることが必要となります。環境保護署は、まず、工場排水などが市町村の基準に適合しているか、土地は廃棄物処理場として使用可能かなどを確認します。次に資源回収管理基金管理委員会の管理下にある監査認証団体が当該工場に赴き、処理廃棄物の物質収支、最大処理量の査定、登録などを行います。また、工場で使われる処理方法とプロセス、使用設備などについても認可が必要です。さらに、完成製品や廃棄物、排出物がどう処理されているかを示す処理商業契約書も提出しなければなりません。環境保護署は、これらを踏まえて汚染コントロール基準を審査し、また緊急報告計画構築状況の可否を判断します。この他にも、工場は保管と廃棄場所を指定してレイアウトも提出しなければなりません。さらに一時処理業者は、3ヶ月に1回、工場操業記録を環境保護署に提出し、その審査を受けなければなりません。このため、一時処理業者は、毎日の生産記録や生産収支記録などを所定書式で保存・保管する必要があります。
補助金審査は、監査認証団体管理委員会が、まず一次処理業者が入荷するPETボトルの ベール が審査事項に適合しているかの事前審査を行った上で、監査認証団体に通知します。監査認証団体は、PETボトルのベール入荷時に現地に赴き監査します。具体的には、ベール中のPETボトルのラベルが台湾のものか否かの確認をします。監査認証においてはここが大きなポイントで、PETボトルのラベルは台湾のものであることが原則で海外のものが多すぎると補助金がもらえません。ラベルを外してしまうと国内PETボトルのベールであるかどうかの認定ができなくなるので、台湾ではPETボトルを廃棄するときにラベルを外せという教育・啓発は行われていません。このため、一般消費者はラベルを外さないでPETボトルを出しています(なお台湾ではキャップも外さないでよいことになっています。これはキャップ付でも物理的・機械的に処理が可能であることによります)。なお、工場内各工程にはモニターが設置されていますので、監査認証団体は現地に赴くことなく24時間モニタリングすることが可能です。実際、監査認証団体は、抜き打ち的にランダムでモニター画像を拡大し、その中味がどうなっているかを細かく確認しています。そして問題なければ入荷報告書を作成し、審査機関に送ります。審査が完了すると認可書が交付され、一時処理業者は、1ヶ月の入荷量に応じた補助金を資源回収管理基金から得ることができます。
<PETボトルの回収と処理>
使用済みPETボトルの回収は回収商経由が70%と圧倒的に多くなっています。PETボトルは、小規模・個人の回収商も引き取ってくれますが、大手の回収商がコンビニやスーパー、マンション、事務所で集められたPETボトルを一度にまとめて引き取るケースが多く、PETボトルの回収においては、大規模な回収商が重要な役割を占めています。
地域の清潔隊でも集めていますが、多くの住民は、近所の小規模・個人の回収商に引き渡してお金に換えてしまうため、清潔隊が集めてベールを再生業者まで持っていくのは25%程度に過ぎません。この他に、民間団体やボランティア団体において、回収したPETボトルのラベルとキャップを取り外したうえで洗浄し、きれいなものにしてからフレーク・繊維化し、カーペットや服などをつくってアフリカなどの貧困国に送るということもあります(後述「慈済」)。台湾ではかなりの人がこのボランティア活動に参加しています。このようなルートから回収されるものは5%程度です。
現在、環境保護署が認定したPETフレーク業者は国内に9社しかありません。この9社で台湾のPETボトルの9割を処理しており、PETについては、非常にうまくいっていると思います。再生されたPETボトルフレークはボトルtoボトルの樹脂、シート、PETバンド、紡織用に使われています。
認定業者9社中の最大のメーカーはORD(亜東創新社)で、処理量は最大月間2千トン、90%と高稼働率となっています。ここで作られたフレークはほとんどボトルtoボトル樹脂に使われています。ただしボトルtoボトル樹脂は、先に述べた理由により、90%は輸出向けで台湾国内では10%しか使われていません。認可容量は月間1万2千トン、9社以外の未登録業者も含めた容量は1万5千トンとなります。台湾は年間18万トンの処理能力があります実際の稼働率は月間8千トン程で6割ほどの稼働率です。登録業者のみであれば月間7千5百トンとなります。
なお、すべてのプラスチックボトルはベール業者が収集、分類、着色の作業を行ってベールにして販売します。日本では、容リ協(日本容器包装リサイクル協会)のベールは毎年入札にかけられますが、台湾には入札制度はなく、ベール業者が直接フレーク業者(一時処理業者)との協議で決めるので、価格は毎月変動することになります。
<PETベールの種類とPETボトルの年間回収量>
■慈済(宗教団体)の飲料PETベール
台湾の仏教系慈善団体の「慈済」では、大勢のボランティアが各地でPETボトルを集めています。このうち無色のものは、ラベルとキャプを取り除き洗浄してベール化します。このPETボトルは専門業者に委託し、フレーク・繊維化を経てカーペットや服などに生まれ変わり、アフリカなどの貧しい国に無償で提供されることになります。それ以外の色付きのものは回収商に買い取ってもらいます。
■色付けPETベールと油・非飲料PETベール
台湾では、日本と違って着色PETボトルが認められているので、無色、緑、青、水色、雑色のPETボトルのベールに分類されます。なお、油と非飲料のPETボトルのベールは、色区分とは別の特殊なものとして扱われます。
ベールは、PETボトルの色や用途で価格差があり、透明のものが一番高く、次いで色付き、一番安価なのが油・非飲料となります。ベールは、色、用途別に分別されていますが、透明のものだけを購入することはできないことになっており、回収業者は全種類を買わなければなりません。具体的には、透明90%、色付き8%、油・非飲料2%の割合で強制的に購入させられます。
PETボトルの回収量は、2009年からほとんど年間10万トン前後です。その中で一番大きな会社はORDで約20%。同社の処理能力は年間2万トンで、その工場は1989年にできました。遠東新世紀は、これに加えて、桃園空港から15㎞ほどのところのリサイクル専用団地にORD2ndの工場をつくる予定で、来年(2014)春完成します。この工場の年間処理能力は3万5千トンなので、元々の工場と合わせると5万5千トンになり、台湾のPETボトルの半分はORDで処理できることになります。
今日はありがとうございました。
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