2008.03.16
プラスチック処理促進協会の講演会 「ドイツの新しい環境対策と日本の戦略」
日本では、環境先進国ドイツから学ぶことが日本の環境政策を前進させることだ、とよく言われます。
しかし、ドイツのどこが先進的であり、何を学ぶべきかをマクロ・ミクロの両面から議論することは少ないのではないでしょうか。
そこで、2008年2月28日、プラスチック処理促進協会は元・BASFエコロジー研究所フォイヤヘア博士とともにドイツと日本の環境政策を比較しながら、有効な環境対策のあり方を提言している神戸山手大学人文学部環境文化学科教授中野加都子氏に講演をお願いしました。以下はその講演要旨です。
「ドイツの新しい環境対策と日本の戦略」
講演者:神戸山手大学人文学部環境文化学科教授 中野加都子氏
はじめに
日本では環境問題というと何でも「ドイツを見習え」といったドイツ礼讃の風潮が猛威をふるっていました。私がフォイヤヘアト先生との共同研究を8年間続けられたのは、先生の研究が製造に関わる、いわば上流からの環境対策、私が廃棄物処理の環境対策という下流からの研究なので、上流から下流までのLCA研究をすることが可能だったこともあります。
しかし、共同研究が持続できた一番の理由は、私が日本には日本の自然、文化、価値観があるという立場を崩さなかったことです。他の国から謙虚に学ぶことは重要ですが、自分の座標軸を見失うことなく、日本の条件や事情に合った環境対策を見出すことが大切だと考えています。
ドイツ環境庁の報告書
「居住地由来の廃棄物処理の戦略と見通し(2020年まで)」と
廃棄物処理の方向性
ドイツでは、これまで、家庭から排出される一般廃棄物は埋め立て処理が中心で、このままでは2020年にはメタンガスが発生するなど人間の生活に重大な影響を及ぼし始めるという問題を抱えていました。
そこで、ドイツ環境庁は報告書「居住地由来の廃棄物処理の戦略と見通し(2020年まで)」を発表し、埋め立てをやめ、廃棄物の発生抑制、焼却処理の導入とエネルギーの再利用により完全リサイクルをめざすという方向性とその方法を示しました。
これまでマテリアルリサイクルを優先してきたプラスチックに関しても、サーマルリサイクルを含めてリサイクル率を向上するという方向性が打ち出されました。
ここで、ドイツでは「埋立地」と呼ばないで「蓄積地」と言っています。
このことからも、既に日本とドイツの根本的な違いがわかります。つまり、日本では国土の約7割が森林であり、「ポケット状の谷に埋め立てる」という基本概念があるのに対し、ドイツでは森林面積が約3割と比較的フラットな条件にあるから、「埋め立てる」のではなく「積み上げる」または「蓄積する」という認識なのです。
報告書は、地球温暖化への対策も視野に入れ、物質循環及びエネルギー回収を軸とした包括的なものとなっている点で注目すべき内容です。
ドイツに限らず、ヨーロッパは全体として埋め立て率が高く、焼却率の高い日本とは事情が違います。
なぜ埋め立て率が高いかというと、(1)環境保全に十分配慮した焼却施設の建設・維持管理に費用がかかり整備が進みにくい、(2)日本ほど使い捨て型社会が進んでおらず、ライフスタイルは質素である、(3)アジアと比べ平均的に気温が低く、衛生上の問題が小さいという理由がありました。
しかし、埋め立てには問題もあります。
(1)蓄積地におけるメタン発生や、蓄積地のシートの劣化などによすCO2漏出など地球環境問題、(2)有害物質の蓄積は将来にわたって安全性を保証するものではないという安全性の問題などです。
そこで、今回の報告書では、埋め立てをやめることを目標にしています。
また、ドイツでは一般廃棄物はすでにデュアルシステムやデポジット制などで58%のリサイクル率を達成していますが、それでも残る残渣廃棄物をエネルギーとして完全利用することにより、リサイクル率を上げるという目標が立てられました。
プラスチック廃棄物の処理については、これまでは環境省とプラスチック業界には激しい対立がありました。
プラスチック業界は、家庭系廃棄物は生ゴミ中心のため、残渣が付着したようなプラスチック廃棄物は焼却して燃料に利用すべきと主張し、環境省は製造過程で多くのエネルギーを消費したプラスチック材料は焼却よりもマテリアルリサイクルすべきと主張してきたのです。
しかし、報告書では焼却して燃料として再利用することも視野に入れられました。
すでにバイオガス化施設が1990年の100施設から2006年の3400施設へと一気に増えていますが、これは、2000年4月に「再生可能エネルギー法」が施行されたこと、MBT(注)という処理方法が開発されたこと、電力の固定価格制が導入され、バイオガス発電が経済的に自立できる仕組みができたことによります。
今後、どのような方法で廃棄物をエネルギーとして完全利用するかについては、7つのシナリオが用意されています。
重要なことは、7つのうちのどれが一番よいというのでなく、地域特性を考えて最適なものを選び地域に合わせたやり方でやってくださいといっていることです。
もう一つの大きな特徴は、最新の特殊な技術でなく、すでにある技術を改良したり、何かを付け加えるという考え方で、できるだけコストをかけない方法を模索すべきといっていることです。
(注) MBT(メカニカル・バイオロシカル・トリートメント)機械的生物処理:その他ごみから機械的に有価物を回収するとともに、生物処理により事前にできるだけ有機物を分解してメタン回収を行う方法
日本とドイツの条件の違いを通した日本の方向性について
ドイツと日本を比較し、双方の条件の違いを明らかにすることは、日本のエコロジカルな歴史・文化を生かした社会システムづくりを進めるうえで重要だと思います。
とくに、リサイクルの促進には一方で産業界に求められてきたようなグローバルな視点をもつことが重要ですが、リサイクルの担い手である消費者・生活者側の対応はローカルな特性を踏まえたものが必要になります。
まず、ドイツと日本の共通する点は、何一つ循環の輪からはみ出さないシステム作りが急がれているということです。
しかし、日本は高温多湿で、ものが腐りやすくさびやすい、台風や地震が多いという自然条件があるため、耐久性のある材料が求められています。そのため、ステンレスやプラスチック素材が不可欠になったわけです。
水の使い方も全く違います。ドイツは大陸にあり、川は国際河川であり、一国で川の水をきれいにしておくことはできないため、7割を地下水から得ています。
そのため水を節約する習慣がついており、一人あたりの水使用量は日本の約3分の一です。一方、日本は島国で、周りを海に囲まれ、表流水を水道水源としており、水は豊富で、衛生観念が高いため、水の使用量が多くなります。
PETボトルの使い方も違い、ドイツではPETボトルで売っているのはほとんどが水なのでリユースが容易ですが、日本ではお茶や栄養ドリンクなど、水以外のものが多いため、においがボトルに残り、リユースには向きません。
自然に対するとらえ方も、ヨーロッパでは歴史的に、自然は人間がコントロールできるものという考え方が底流にありますが、日本は森林面積が7割ということから、植物の光合成、植物の循環に依存して、文化や価値観を作ってきました。
「もったいない」という言葉に象徴されるように、エコロジカルで持続可能性のあるさまざまな経験を積んできました。驚かれるかもしれませんが、一人あたりのごみの排出量も日本はドイツよりも少なく、その傾向は最近の方が顕著になっています。
工業製品を中心とした社会の中では、環境基準やルール、環境負荷評価技術の国際標準化、環境負荷低減への科学技術の適用、先進国共通の環境負荷低減型ライフスタイル、経済活動との密接な関係というグローバルな視点は不可欠です。
しかし、日本は地理的条件、自然条件、文化に合った、今後の方向性を考えるべきだと思います。特に、G8の中で、唯一アジアモンスーン地域にあるのですから、ヨーロッパとは材料の果たす役割や、環境負荷の少ないリサイクル・処理方法も違うこともあるという視点を持ち、アジアを代表する声を上げなければなりませんし、アジアにおいてリーダーシップをとることがより重要になっています。
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