2017.09.25

川ごみの削減を目指す! ~全国規模での取り組み~

川ごみの削減を目指す! ~全国規模での取り組み~

川ごみが実は私たちの生活に深く関わっているということは、あまり知られていません。川ごみはいずれ海ごみとなり、地球規模の課題となります。課題解決の第一歩はまず「現状を知ってもらう」ことです。

7月5日に行われた、荒川クリ-ンエイド・フォーラム今村理事・事務局長、全国ごみネットワーク伊藤氏をお迎えした講演会の第2回記事として、伊藤氏の講演内容をご紹介します。

伊藤 浩子

■講演者プロフィール
伊藤 浩子(いとう ひろこ)氏
環境省登録環境カウンセラー(市民部門)。「公益財団法人日本環境協会こどもエコクラブ」、「NPO法人えどがわエコセンター」、「公益社団法人日本フィランソロピー協会」スタッフ歴任後、本年年3月まで「NPO法人荒川クリーンエイド・フォーラム」事務局長。現在は「全国ごみネットワーク」事務局を務める。

1.全国の河川では… <川は私たちの身近な存在>

「全国川ごみネットワーク」の伊藤と申します。川ごみのことでお話をさせていただきます。私は、今までごみの視点から川をみてきました。「身近なところにあって、安心して親しめる、そういった川をみんなでつくっていきたい」との思いで活動に関わってきました。

 

今、「川」と一括りで申しあげていますが、「川」といっても、実際のところいろいろなものがあります。写真左が山形の最上川、右が京都の保津川です。保津川は、水のきれいな川で、保津川下りや川沿いを走るトロッコ列車で人気があります。写真真ん中は、上が落合川という、荒川支流の支流のさらに支流といった川で、東京の東久留米を流れています。都内でもこういった清流がまだ流れています。その下は東京下町を流れる隅田川で、浅草のあたりです。このように日本国内には様々な川が流れています。皆さんの近所にも川が流れているかと思います。川は日本中いたるところにあり、私たちには身近な存在です。

コラム

<ごみが共通課題>

そのような川ですが、先ほどの写真の最上川、このような清流でも溜まるところにはごみが溜まっています。同じように水のきれいな保津川でも湾曲するところではごみが溜まってしまいます。次の写真左上は新潟の信濃川の河口近くを写したものです。この写真は大雨による出水後なのでごみの溜まり方には極端なところもありますが、このような様子です。先ほどの今村さんのお話は荒川が中心でしたが、荒川だけでなく、日本全国のいろいろな川でごみが問題となっています。

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2.川ごみの流入経路 <海ごみの7割は陸域由来>

海に流れているごみの約7割は陸域由来だといわれています。日本海側では約5割、太平洋側では8~9割が川を通じて、陸のごみが海に流れ込んでいるといわれています。つまり海ごみの問題を解決するには、川ごみ対策が必要だということです。そしてその対策として、原因となる町のごみを無くしていくことが求められているのです。

<町中から>

川ごみはどこからくるのでしょうか。次の写真は国会議事堂周辺のものですが、植え込みにごみがあるのがわかります。ポイ捨てです。皇居のお堀にもこのようなごみが浮いています。

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<用排水路を通って>

ポイ捨てごみの排水溝への流れ込みや、橋の上からのごみ投げ捨てで、用排水路を通じて、いろいろなところからごみが川に流れ込んでいます。

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<農業関係>

町中だけではありません。次の写真は川のすぐ上に畑があるところです。捨てたのではなくちょっとそこに置いただけなのでしょうが、肥料袋がすぐ下の川に落ちてしまっています。こういったことで農業関係のいろいろなプラスチックがごみとなって川を通じ海に流れ込んでいます。

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<ごみはどこからどこへ…>

今お話しましたように、町でポイ捨てされたごみが用排水路に流れ込んだとか、捨てるつもりはなかったのだけど風で川に落ち込んでしまったとか、ひどいものでは悪質な業者が川に不法投棄したとか、河川敷でレジャーを楽しんだ利用者がごみを片付けずに行ってしまったとか、そういったことから、いろいろなごみが川に入り込み、やがて海に出ていってしまっているというのが実態です。

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<PETボトル>

今村さんのお話で、荒川で一番多い回収ごみはPETボトルということが取り上げられていました。PETボトルリサイクル推進協議会のデータによると、日本のPETボトル回収率は年間92.4%(2015年度)とものすごく高い値となっています。これだけ高回収率のところは世界的にみても例がありません。これはとても素晴らしいことなのですが、残りの7.6%が気になります。清涼飲料用PETボトルの年間出荷本数は205億本ですので、残りの7.6%を計算すると15億本ということになります。つまり年間15億本が回収されないままとなっているのです。

未回収といっても、実際のところはそのほとんどが「燃やせるごみ」として処理されているのだろうと思いますが、例えばカラスがPETボトル収集袋を破き、そこからPETボトルが路上に散乱し、そのうちの何本かが何らかの理由で排水溝に流れ込み、最後に海に出ていってしまうということも考えられます。それが未回収15億本の例えば1割だとしても、1.5億本、これが毎年自然界に出ていくことになります。1億本といっても実感できないかと思いますので、これをたてて並べてみれば、実は東京からロサンゼルスまで(8,825km)並んでしまうというぐらいものすごい数なのです。これだけのものが毎年自然界に流れ出ている可能性がある、このことはみんなで真剣に考えねばならない問題だと思っています。

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<未回収PETボトルを資源に!>

次に「未回収PETボトルを資源に!」ということですが、PETボトルは、独自処理や指定法人(日本容器包装リサイクル協会)に引き渡されるのが2015年度は28万トンでした。国内での再商品化可能量は44.9万トンいわれていますので、かなりの量が中国等にいってしまっているようです。もし川にあるPETボトルをうまく回収できれば、立派な再生資源になるはずです。資源になるはずの川にあるPETボトルを何もせず放置するなど全くもったいないことです。もし落ちているPETボトルにはすごい価値があるということになるなら、それはもったいないと、みんな一所懸命集めるようになるでしょう。みんなの意識を変える、そうしないとPETボトルごみは無くなりません。「未回収PETボトルを資源に!」ということは皆さんに是非考えていただきたい課題と思っています。

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3.対策に向けて <拾うだけではごみはなくならない>

ではどういった対策をとっていかなければならないかということですが、荒川クリーンエイドでも行っているように、やはり「まず拾う」ことが大切です。下写真中央は、今村さんのお話にもあった、みんなで楽しく清掃活動をした結果です。昨年秋にごみが溜まっていたところを集中的に清掃して、このときはほんの1時間ぐらいできれいになりました。でも半年経つと写真右のようにまたごみが溜まってくる。これでは何年拾っても、何度拾っても、ごみはどうしても無くなりません。拾うことはとても大事なことなのですが、もはや根本的解決にはならないということが明らかになってきました。

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<海ごみ対策としての動き>

世界的な海ごみ対策の重要性が2015年のエルマウサミット首脳宣言で初めて採り上げられ、16年の伊勢志摩サミットでも陸域を発生源とする海ごみ、特にプラスチックごみの発生抑制および削減に寄与することを共通の認識とするべきことが確認されました。今年のG7でも同様の提言がなされています。国内をみてみると、09年に「海洋漂着物処理推進法」が制定されました。ただこの法律は、離島や本土の沿岸に中国などから流れ着いた海岸漂着ごみをどう片付けるかといった内容が中心となっているものです。普及啓発を図ることも含まれてはいるもののあまり進んでいません。法制定後7年経過しましたが、今この改正に向けた動きが政府与党内で進んでいます。漂着ごみの処理も重要なことだが、海ごみの抜本対策としては、陸域からの発生抑制ももっと進めていくべきだとの考えによるものです。海ごみに係る世界の動きを踏まえ日本として対応を急速に進めていかねばならなくなっています。

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<全国で連携し、大きな力に!>

私は今まで荒川で主に活動してきましたが、川ごみの問題は日本全国の河川で同じように起きていて、生態系、自然環境、観光や漁業などに様々な影響をもたらしています。長年の活動の中ではっきりとしてきたことは、「拾うだけではこの問題はもはや解決できない」ということ、そして「海ごみについては、川から対策を講じていかなければならない」ということです。そんな思いが高まり、今ここで動かねばということで、「全国で連携して、川ごみの根本解決を目指す!」ことを掲げた「全国川ごみネットワーク」を立ち上げました。このネットワークの活動自体まだ小規模なものですが、問題解決に向け、私たちも大きく動いていかなければならないと考えております。

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4.全国川ごみネットワークの活動 <全国川ごみネットワークを設立>

先ほど申し上げましたように、この団体は、「全国的課題は一河川だけでは解決できない」との認識の下、それまでゆるやかな連携関係にあった全国の団体を2015年「全国川ごみネットワーク」として立ち上げたものです。まだ日は浅いのですが、これまでの活動実績を申し上げれば、例えば「川ごみサミット」を第1、2回は東京で、第3回は京都の亀岡でそれぞれ開催したことがあげられます。このサミットには、全国で川ごみや海ごみ問題に取り組んでいるNPОや個人、国土交通省、環境省などの国、都道府県、市町村などの自治体の関係者に多数参加してもらっています。川ごみや海ごみの問題は組織の壁を越えてみんなで取り組んでいかなければならない、そのためには何をしたらよいかを話し合い、知恵を出し合って、協力していこうということで進めています。またこれ以外のものとしては、全国各地によびかけ「水辺のごみ調査」を行ったり、問題解決に向けた方策検討・立案、行動プログラムの実践といったことも進めようとしています。

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<活動内容>

実際の活動を進めるうえでは、まず全国の川ごみの実情を知ることが大切です。全国河川におけるごみ状況を調査し、あるいは各地域河川で活動する主な団体へのヒアリングといったことをしています。実際どうすれば川ごみを無くすことができるのか、先ほどの荒川クリーンエイドでは、支流河口にネットを張る、特異的に溜まるポイントで効率的に回収する、そういったようにとにかく荒川本流に入る前に回収することで本流に入り込むごみを減らそうとしています。あるいは町中にある自販機の隣にごみ箱があったほうが果たして良いのかどうかを調べているところもあります。川にごみが入るいろいろな経路には様々なパターンがあると思いますが、どのようなパターンで、どこを抑えれば川に入っていくのを減らせるのかということを実際にモデル的に進めて調査し、それが効果的であれば、全国に広めていく、そういった形で仕組みづくりに向けた動きを今後進めていきたいと思っています。

 

最後は啓発活動の強化です。「企業に製造者責任を負わせればそれで終わり」ということではなく、私たちが目指しているのは「新しい資源化技術の開発」の後押しです。川などでよくぐちゃぐちゃとなったPETボトルをみかけますが、これを新技術で資源化できたら、再生につながる宝物となります。また市民団体などと協力して「賢い消費者」を増やしていきたいとも思っています。企業が努力して環境に良い商品を出しても、「値段が高いから買わない」と消費者がいうようではなんにもなりません。環境によいものを選ぶ消費者を増やしていかないと、良い技術が開発され、良い製品ができても、それが選ばれないということになってしまいます。より多くの人に「賢い消費者」になってもらえるよう私たちは努力していかなければなりません。具体的には、今、川ごみ、海ごみが世界的な問題となっていること、川ごみ、海ごみを減らすには、これらが資源循環のサイクルから逸脱しないよう、また離脱してしまったものはサイクルに再び戻すようにすることを消費者が意識して活動するための啓発に取り組んでいきたいと思っています。消費者と環境団体とが手を取り合えば、川や海の環境を向上させる循環型社会を構築していけるのではないかと考えています。

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<サーキュラー・エコノミー(循環経済)>

私はあまり詳しくないのですが、この表は環境省の方が作成された資料です。今、EUではサーキュラー・エコノミー(循環経済)という言葉が使われるようになっているそうです。これまでは直線経済だったものを、今後循環経済へ移行すれば、経済・雇用・資源・環境等の面ですべてよしというもので、そのためには、廃棄物を管理・資源化し、再び製造に持っていく。そういった循環が必要だとしています。それをうまく回すには、経済を含めないとならないので、そういった社会が構築されることを期待しています。

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<世界の動き>

ダボス会議(世界経済フォーラム)では、「海を漂うプラスチックの量は、重量換算で2050年までに魚の量を上回る」といった予測も示されました。これはあくまでもこのまま何もせずに従来どおりプラスチックが増えて続けていったらどうなるかというものですが、世界の重要会議でこの種の報告がなされたという事実は重く受け止めねばなりません。また2017年2月、国連環境計画(UNEP)は、海洋プラスチックごみの削減のための「#CleanSeasキャンペーン」を始めました。これらのように世界で今様々な動きがみられるようになっています。また国内でもこれに呼応する形で新たな動きが出てきました。世界の動きと国内の動きとの相乗効果が期待されます。

 

さてサンフランシスコではPETボトル飲料水販売禁止、フランスではレジ袋禁止ということになりました。カリフォルニア州は、以前にもレジ袋禁止ということにしたのですが、当初は業界団体の猛反対でうまくいきませんでした。しかしながら、最終的には、住民投票でレジ袋を禁止することになりました。PETボトルやレジ袋を禁止するかどうか、ここでも「賢い消費者」であることが必要になってくるかと思います。私たち市民活動団体としては、生活者団体とともに、「賢い選択をする社会を創り上げていかねばならない」と考えており、今後もそのための啓発に取り組んでいきたいと思っています。

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<ごみのない未来の川、海、地球~>

私たちの願いは「ごみのない未来の川、海、地球、自然と共生する循環型の社会を目指していきたい」ということです。川は、私たちのとても身近なところにあり、海ごみのことにも思いを馳せられる、ごみについて学べる貴重な場所です。みんなで川を通して、ごみのことを多く学び、ごみのない社会が実現できるよう進めていきたいと思っています。以上です。ありがとうございました。

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※ここまでの本文に掲載の図、表、写真等はすべて伊藤様が作成された資料を使用させていただいております。