みなさんこんにちは。林 佳衡(ジャーヘン)です。
第1号~第3号まで台湾のリサイクルシステムやプラスチックのリサイクルについてご紹介しましたが、今回は視点を変え、台湾の環境教育についてご紹介いたします。
~台湾では2011年から環境教育がスタート~
ある日のお母さんとの会話です。
母:「ねぇねぇ、ジャーヘンは国立台湾科学教育館へ行ったことある?」
ジャーヘン:「ないけど、どうして?」
母:「近所のレーレーちゃんが昨日ね、環境教育で行ってきたそうよ。」
ジャーヘン:「環境教育ってなあに?」
母:「私もよくわからないわ~。」
「環境教育」という言葉が気になったので、私は調べてみようと思い、国立台湾師範大学環境安全衛生中心に勤めている知人の許さんに連絡を取ってみました。
ジャーヘン:「近所の小学生が環境教育で国立台湾科学教育館に行ったって聞いたんです。私たちのときはなかったと思うんですけど、台湾ではいつから環境教育が始まったの?環境教育について教えてくださ~い。」
許:「ジャーヘンさん、台湾では2010年に環境教育法ができて、翌2011年から小学校、中学校、高校の児童や生徒、先生、国家公務員などは毎年「年間4時間の環境教育」を受けることが義務付けられたんですよ。」
~環境教育法のアウトライン~
今回、環境教育法について解説してくれた許さんは、行政院環境保護署が認証した環境教育を担当する「環境教育員」だそうです。
<環境教育法の成立>
台湾の環境教育は1980年代から始まり、環境保護署を所管官庁とした環境教育法は2010年に制定しました。環境教育法は強制力のある法律で、環境教育を受けなければならない人たちが決まっています。そのため「認証制度」を設け、環境教育を行う「環境教育員」、環境教育員を育成する「環境教育機関」、環境教育を実施する「環境教育実施機関」について環境保護署が認証を行います。毎年、年間4時間の環境教育を受けなければならない人たちは次の通りで、正副総統も受けなければなりませんよ。
- ○小学校~高校に在籍する生徒、先生、職員
- ○官庁の職員
- ○国営法人・関連組織
- ○政府が半分以上出資した財団法人に属する全ての職員
もちろん、義務でないお母さんや小学校入学前の幼児も環境教育実施機関へ行って、環境教育プログラムを受講できますよ。
<環境教育員になるには>
環境教育員になるには、いろいろな方法があるそうですが、許さんは元々大学で環境教育課程が専門で、師範大学のスタッフとして勤務してから環境教育機関で30時間の環境教育を受けて環境教育員になりました。講義の内容は、環境教育の先生としての倫理観や環境教育プログラムの作り方などです。環境教育員として認証されると5年間有効で、環境教育実施機関で教えたり、環境教育プログラムを作ったりする環境教育関連の行政手続きなどが担当できるんです。
~環境教育法設立の背景など~
許さんの説明で、環境教育法のアウトラインは理解できましたが、そもそも環境教育法ができた理由や、なぜ強制力のある法律にしたのか、もっと環境教育法を知りたくなったので、行政院環境保護署のサイトにアクセスし、さらに大元に迫ってみることにしました。ここからはQ&Aでご紹介します。
<台湾の環境教育法とは>
台湾では環境教育を確実に進めるため、2010年5月に環境教育法を制定しました。アメリカ、ブラジル、日本、韓国、フィリピンに続いて、台湾は環境教育法を制定した6番目の国なんですよ。
Q1:環境教育法の特色は?
A1:大きな特色は2つあります。
まず、環境教育法をもつ国の中で、唯一「強制力がある」法律だという点です。環境教育を受けなければならない対象者をきちんと定めています。
次に、実施する環境教育の内容に責任をもつため「認証制度」が設けられ、環境教育を行う「環境教育員」、環境教育を行う環境教育員を養成する「環境教育機関」、環境教育を実施する「環境教育実施機関」は、環境保護署の認証を受けなければなりません。なお、認証は5年間有効で、それぞれ5年ごとに再度認証を受ける必要があります。
そのほか、環境教育法を制定している国の多くは教育省のような官庁が所管していますが、台湾では環境保護署が所管している点も特色です。
Q2:環境教育法の対象者は?
A2:環境教育を毎年受けなければならない人たちは、次の4分野に該当する国民です。
- (1)全国の各政府機関
- (2)国営法人・関連組織
- (3)小中高校の教職員及び生徒
- (4)政府が50%以上出資した財団法人
前記の人たちは、環境教育を毎年、年間4時間受けなければなりませんが、(1)~(4)に該当しない人たちも環境教育を受講することが望ましいので、足を運びやすい博物館や動物園のような施設を環境教育実施機関として認証しています。見学にいくついでに環境教育が受けられます。
Q3:環境教育法ができるまでの時間や背景、目的は?
A3: 台湾の環境教育法のオリジナリティでもある「強制力」をつけるための工夫や、どうやって環境教育の品質を維持するか等々を決めるまでに17年間かかりました。
台湾では20年ほど前から環境教育がスタートしました。そのきっかけは深刻な環境の悪化、環境問題でした。当初は「環境保護」に重点が置かれましたが、環境教育はそれだけにとどまらず、自然現象、防災、文化資産の保護等も含まれる幅広い内容になりました。
環境教育プログラムを通して、環境保護や持続的発展の概念を広め、人間と自然の共存共栄といった概念を国民が学習し、理解できるようにすることが目的です。
■認証制度
Q4:環境教育員になる方法と、認証システムを受けた環境教育員の人数は?
A4:環境教育員になるには、学歴、経験、専門、推薦、訓練及び試験の6つの方法があります。
2014年に認証した環境教育員は合計3,278人(教育部も含め)です。地域別では台北市409人、新北市402人、台中市402人の環境教育員が認証されました。全国どの地域にも環境教育員がおり、国民の環境教育に貢献しています。今後もさらに増える見込みです。
Q5:環境教育機関と環境教育実施機関はどんなところ?
A5: 2014年に認証システムを通過した環境教育機関と環境教育実施機関の分類は次の通りです。
■環境教育機関の内訳は政府機関、大学あるいは財団に属する独立した学校法人、法人に3区分されています。
■環境教育実施機関の分類は次の通りです。
分類 |
---|
自然教育 |
国立公園・市立公園 |
農場 |
観光地・遊園地 |
水資源に関する場所及び湿原 |
地域コミュニティ |
博物館・動物園 |
環境保護・省エネルギー施設 |
文化資源保護 |
土砂流失防止関連施設 |
表1:環境教育実施機関の分類
【資料提供:台湾行政院環境保護署】
プラスチック処理や焼却場などの施設での環境教育は、「環境保護・省エネルギー施設」に入ります。
ここ3年間で環境教育実施機関として認証された数の推移と環境教育プログラムに参加した人数の推移は表2のようになっています。
年度 | 認証数 | 環境教育プログラム参加人数 |
---|---|---|
2012年 | 51カ所 | 120千人 |
2013年 | 77カ所 | 300千人 |
2014年 | 99カ所 | 330千人 |
表2:環境教育実施機関の認証数と環境教育プログラム参加人数
【資料提供:台湾行政院環境保護署】
環境教育実施機関の認証条件は、(1)実施場所の確保、(2)環境教育プログラム、(3)環境教育スタッフ、(4)資金などが挙げられます。
Q6:学校での環境教育は?
A6: 今後「小中高校の学校では最低1名の環境教育員を配置する」ことになっています。環境教育員の先生を中心に、どのような環境教育を行うのか検討し独自の環境教育プログラムを作成します。それに基づいて環境教育実施機関を選び、環境教育を行います。
【資料提供:台湾行政院環境保護署】
~廃棄物や(プラスチックの)リサイクルも~
<環境教育法と資源回収四合一制度>
「台湾リサイクルレポート」の2号と3号で四合一制度をご紹介したことを覚えていますか?環境教育法を調べていたら、この制度を思い出しました。
環境保護署によると廃棄物処理や資源回収も環境保護と密接に関わり、台湾では1997年から資源回収四合一制度が始まり、さまざまな方法を使って国民に周知するようにしています。もっとも大きな役割を果たしているのは回収車で回収を行っている地方清潔隊です。市民と直接触れ合い、コミュニケーションを取りながら、ごみの捨て方の指導も行っています。四合一制度がスタートした当時の資源回収率は6%でしたが、十数年が経ち、資源回収率は45%(2014年度)まで上がって、大きな進歩を遂げているようです。
■環境保護署で紹介された四合一制度を市民に周知させるための方法
四合一制度マークをつけ、可視化を図る
ホームページから、いつでも検索可能
四合一制度についての月刊誌発行
作文コンテストの実施
廃棄物のダンス衣装でダンス(PETボトルを使った服のファッションショー)
資源ごみの回収による経済価値を認識させる宣伝実施
台北市内はこの頃とってもきれいになっていますよ。四合一制度がみんなの中に根づいてきたからかもしれませんね。
今までは回収車の1台目はプラスチックフィルムなどの一般ごみ、2台目はプラスチックボトルや缶などの資源物と飼料用と堆肥用に分けておいた生ごみの2台1組でごみ収集をしていましたが、最近、下の写真のように一般ごみを集める1台目の回収車だけの場合があります。そばには必ず回収商がいて、プラスチックボトルや紙などの資源物を集めています。四合一制度が始まって十数年たち、地域ごとに効率的な回収方法が生まれているのかもしれません。
私は環境教育の背景や目的、内容、さらに四合一制度との関連を知り、以前より環境について考えるようになりました。台湾市民も環境教育を受け「四合一制度」との関連がよくわかるようになっているようです。
<台北市立北投焼却場>
北投焼却場は、1988年に完成した公営焼却場です。地域のごみ焼却場という役割上、以前から地域住民を対象に環境教育を担当しています。
現在は5人の環境教育員が中心となり、焼却場の特色を活かした環境教育を行っています。台北市のごみ回収にも触れ、分別回収の理解を深めるようにしているそうです。小学校低学年はゲームが主体で、身体を動かして飽きさせないような工夫をしています。高学年になると知識の定着を図るプログラム構成となり、大人は、工場見学と焼却工程の紹介、ビデオ鑑賞などを組み合わせています。なお環境教育の内容はネットでも公開しています。
~このような場所で環境教育を実施~
環境教育プログラムは、講演、討論、見学、体験、実験、戸外学習、ビデオ鑑賞、インターネット学習などいろいろな形式があり、環境教育実施機関で独自に構成しているようなので、私はそこでの環境教育プログラムにとても興味をもちました。各施設で工夫しつつ、子どもも大人もあらゆる年齢層が楽しめる内容で、自然に地球環境や環境保全、廃棄物やプラスチックボトルなどの資源物の再利用について理解が深まるように構成されているようです。どんな場所でどんな環境教育を行うのか、実際に行ってみようと思いたちました。まず私は近所のレーレーちゃんが行った国立台湾科学教育館を訪れました。
<国立台湾科学教育館>
国立台湾科学教育館は、1956年に全国唯一の科学教育を行う機関として設立。2012年10月に環境教育実施機関として認証され、環境教育を受けた人数がもっとも多い施設だそうです。館内の「環境教育チーム」には認証を受けた環境教育員が5人いて、その人たちを中心に検討を重ねながら、環境教育の新しいプログラムを開発していきます。現在、(1)人と水、(2)空気、(3)土、(4)廃棄物、(5)実験室利用の5分野の環境教育プログラムがあります。
■国立台湾科学教育館の環境教育の特色
(1)展示を利用し環境教育を展開
(2)4台ある移動バスを活用し、全国各地で環境教育を実施
(3)館内の科学実験室(12室)の有効利用
(4)インターネット利用
国立台湾科学教育館にある環境教育の「廃棄物」コーナーでは、リサイクルできるもの、できないものを○×で答えるブースがあり、子どもたちが競って挑戦していました。こうやって自然に廃棄物の処理方法を学んでいくようです。
また、下の右の写真は、台湾で年間3億個消費されるPETボトルがリサイクルできる資源物であることがわかるようになっています。博物館で見学して、身近なプラスチックボトルはごみではなく再利用できる資源だと認識し、それらを体験できるような仕組みになっています。
<国立台湾博物館>
次に台北市中正区にある国立台湾博物館を訪れました。この博物館は2014年に環境教育実施機関として認証され、自然環境を中心に環境教育を行っています。それぞれの学校ごとの環境プログラムに合せ、博物館の環境教育プログラム(気候、自然等)から選びます。
博物館では、生物の多様性から地球環境の大切さを学んでいくようなプログラム構成で、人類がこれからも長く生きていくために必要なことを考えさせ、環境意識を高めるようにしているそうです。館内は興味を引くような展示になっているので、子どもも大人も興味津々です。
そして館内を見学するだけではなく、クイズなどを通じ、知識として定着するようにしているとのことです。説明してくれた環境教育員の黄さんは、国立台湾博物館が環境教育実施機関に認証されてから、大人の入館者が特に増えていると嬉しそうに話してくれました。今後も親子向けなど環境教育プログラムをどんどん充実させていくそうなので期待しています。
<台北市立華江国民小学校>
台北市立華江国民小学校は台北市萬華区にあります。この地域は観光地として有名な龍山寺の門前町で下町の風情が色濃く漂っています。華江国民小学校は地域と一体になって環境教育を進めているそうです。たとえば以前、小学校の敷地はコンクリート塀で仕切られていましたが、校内が見えないため、ごみの投棄などもあったとか。そこで、この塀を撤去し生け垣にしたところ住民にとても好評で、今では住民が植物の植え替えや水やりを担当してくれるようになり学校はきれいで安全になったそうです。
小学校では、地区の「清潔の日」に合せ、先生が児童に直接資源回収やごみ分別の指導を行っています。児童は家からプラスチックボトルなどを持ち寄って、校内にある回収場所に置きます。
また先生方が日頃の学校生活の中で児童が自然に環境を意識するような取り組みをしているそうです。環境教育の一環として、校庭の樹木の名札には二次元コードがあり、それをスマートフォンで読み取り樹木の詳細データがネットで閲覧できるようになっています。校舎の屋上で雨水をため、校内の樹木用の水やりやトイレを流す水として活用していて、再利用や節約の大切さが自然に学べるようです(5・6枚目の写真参照)。
日本の環境教育
<日本の環境教育の歴史>
日本の環境教育は2つの運動が始まりだそうです。1950年代から自然破壊を危惧し生まれた「自然保護教育」と、1960年代に発生した公害に対処するために始まった「公害教育」です。日本で環境教育という言葉が定着するのは1980年代後半からのようです。1993年制定の「環境基本法」に環境教育の重要性が明記され、2003年に「環境の保全のための意欲の増進及び環境教育の推進に関する法律」(環境保全活動・環境教育推進法)が制定されましたが、環境教育のさらなる充実を図る必要性が高まり、2011年6月に全面改定され「環境教育等による環境保全の取組の促進に関する法律(環境教育等促進法)」になりました。
<学校における環境教育>
日本では環境教育の教科がないため、理科や社会科、家庭科、保健その他の教科で環境関連の話題を取り上げます。また、2002年に導入された「総合的学習の時間」で環境教育が行われています。児童や生徒は環境教育を通じ、環境に対する態度や環境に配慮した生活の必要性などを学んでいきます。
<地域社会における環境教育>
自然観察活動など多様な体験活動が盛んに行われ、地域環境を学ぶ場が提供されています。環境教育を担う指導者育成の取り組みとして、1996年に環境省は環境教育と環境保全活動の推進を目的に「環境カウンセラー登録制度」を創設しました
1998年度に国土庁、文部省(いずれも当時の名称)、農林水産省の3省庁合同調査で提唱された「田んぼの学校」、文部科学省推進の「環境教育推進モデル事業」、1995年から環境省が推進している「こどもエコクラブ」といった環境教育の取り組みもあります。
【参考資料:「日本の環境教育概説」(文科省委託事業)】
<終わりに>
日本と台湾の環境教育は違いもありますが、両国とも環境教育がなされている世界でも数少ない国であることのほうが重要で大きな意味があると思います。
私は台湾リサイクルレポートで、皆様にご紹介しようと台湾や日本のごみ処理やリサイクル方法、プラスチックの分別などを学んでいき、今回、台湾での環境教育について調べていくにつれ、意識が変わっていきました。ごみを分別したり、減量したり、リサイクルしたり、昆虫や植物が住みやすい環境を心がけるのは、結局は自分たちのためだということがわかりました。私たちがこれからも生きていくには、環境をきちんと意識し、大切にしていく心がけが大事なのだと思います。これからは環境とちゃんと向き合っていきたいです。
その第一歩として、受講義務はないですが今回の調査で面白く思った環境教育プログラムを受けてみます。そして受講が終わったら、インターネットで自分の環境教育の履歴が登録できる台湾師範大学の許さんに教えてもらった「終身パスポート」を活用しようと思います。
長い間、「台湾リサイクルレポート」におつきあいいただき、ありがとうございました。自分たちが住んでいる地域を大切に思う人たちが増えたらいいなあ~と願っています。
「再見!(サイチェン)」
【取材協力】
- 台湾行政院環境保護署 総合計画処
- 台北市政府環境保護局
- 国立台湾博物館
- 国立台湾科学教育館
- 台北市立北投焼却場
- 台北市立華江国民小学校 陳校長先生
- 台北市萬華区華江里 楊里長
- 国立台湾師範大学環境教育研究所
- 国立台湾師範大学環境安全衛生中心
- 財団法人台湾産業服務基金会
- 学習支援サイト