2024.11.07

膨らむ、縮む、衝撃に強いポリスチレン

膨らむ、縮む、衝撃に強いポリスチレン

暮らしのなかで欠かせないポリスチレン

ポリスチレンは幅広い用途を持つ汎用樹脂

ポリスチレンは世界で約1,100万トン消費されています(2022年推計)。日本では3社が生産を行っており、約60万トンが消費されています(何れも2022年実績)。ポリスチレンは生産・消費量が多く、幅広い用途を持ち、ポリエチレンやポリプロピレンなどともに、4大汎用樹脂と呼ばれます。1935年に工業化され、約90年の歴史があります。

 

加工がしやすく、形状再現性が良いため、電気製品や雑貨、食品容器などに幅広く使われています。また発泡させやすい材料なので断熱性の用途に多くの発泡製品が使用され、省エネルギー効果が大きいという優れモノです。

冷蔵庫の中にはポリスチレンがいっぱい

日常生活に欠かせない冷蔵庫。このなかにはポリスチレンを使った製品が数多くあります。飲料、調味料、卵などを収納するプラスチック棚には一般グレードと呼ばれるGPPS(詳細後述)が使われています。また冷蔵庫内の内壁には耐衝撃グレードのHIPS(詳細後述)が使われています。食品容器にもポリスチレンは様々に使われています。お刺身やお肉などの食品トレーや、納豆の容器は、発泡しやすいGPPSが使われています。スーパーマーケットなどで、お惣菜のケースとして使われる透明プラスチックケースもポリスチレンで作ります。乳酸菌飲料やヨーグルト等の容器にはHIPSが採用されています。HIPSはブロー成形や射出成形などプラスチックの加工法として広く使われている加工に適しています。

家電製品にも欠かせないポリスチレン

冷蔵庫の部品だけでなくポリスチレンは家電・電子機器に広く使われます。テレビや液晶ディスプレイの筐体や内部パーツ、ディスプレイフレーム、エアコンの筐体にも軽量で衝撃に強いHIPS使われています。

ポリスチレンの種類と主な用途

透明で剛性が高いポリスチレン

ポリスチレンは大きく分けると、透明性が高く硬い汎用ポリスチレン(GPPS=General Purpose Polystyrene)と、ゴム成分を加えて衝撃性を改良した耐衝撃性ポリスチレン(HIPS=High Impact Polystyrene)の2種類があります。加えて、結晶性で不透明ですが、耐熱性にすぐれたシンジオタクティックポリスチレン(SPS=Syndiotactic Polystyrene)が1990年代後半からエンジニアリングプラスチックとして登場しています。

 

3つの樹脂とも形を作りやすい(成形が簡単)、電気を通しにくいという共通性を持つ一方、GPPSには透明性が良い、発泡させやすい、HIPSには衝撃強さと堅さのバランスがとれているという特長があります。SPSは融点が270℃という耐熱性に加え、電磁波を透過する性質から通信機器の部品や電子レンジ用食器に利用されるほか、水をはじく疎水性から機能性繊維としても利用されています。ポリスチレンは石油系の溶剤などに弱いが、酸・アルカリやアルコール製剤には十分に耐性があるので、食品包装容器や家電分野で多く採用されています。

 

ポリスチレン製品は、射出成形、押出成形、真空成形、発泡成形などの多様な製造方法を適用できることが用途の汎用性の高さにつながっています。これらの製造方法はプラスチックを成形する方法として工業的に広く採用されているものです。

 

GPPSは透明性と硬質な特性から、幅広い用途で使用されるプラスチック材料です。安価で射出成形が容易であることが最大の強みの1つです。透明性を利用してCDのケースに使われます。またGPPSは着色性や塗装性が良く、接着性にも優れることから、日用品やプラモデルの素材として広く使われています。また発泡性が良いことから、発泡スチロールとして食品の断熱容器や建築用断熱材としても使われます。

ビーズを膨らませて作る発泡スチロール(EPS)

電気製品を購入し、ダンボールを開けると目に飛び込んでくる白い緩衝材。発泡スチロール(EPS=Expanded polystyrene)です。生鮮食料品の保冷箱としても欠かせません。EPSは、予め発泡剤を含ませたビーズと呼ばれる小さなポリスチレンの粒を蒸気で温めて、予備発泡粒子を作り、この発泡粒子を金型に入れ、再び蒸気で温めて作ります。発泡したポリスチレンは原料ビーズの50倍の体積で、その98%が空気、原料わずか2%の省資源な素材です。ビーズを使うので、ビーズ法発泡スチロールとも呼ばれます。発泡はプラスチックとしてのポリスチレンの特長で、需要の3分の1が発泡製品として消費されます。ビーズクッションの中身にもポリスチレンビーズが使われています。

 

EPSは1950年にドイツで開発され、日本では1959年に国産化されました。開発当初は、コルクの代替品として冷凍・冷蔵用に使われていましたが、断熱性、耐水性に優れ、軽量であることから、冷やしたまま輸送する魚介類の保冷箱に使われるほか、耐衝撃性にも優れるため、家電・OA機器の緩衝材などにも広く利用されています。さらには住宅建材など生活の身近なところで使われています。床下断熱など住宅の内部部材に使い建物の断熱性能をアップするのに役立っています。

 

土木の分野でもEPSを盛土に混ぜる超軽量盛土工法が開発され、埋立地や河川沿いなどの軟弱地盤や過大な荷重を避けたい崖地などでの盛土・道路拡幅など様々な現場で利用されています。

シート状に引き伸ばす発泡ポリスチレンシート(PSP)

ポリスチレンを発泡させる方法は他にもあります。発泡ポリスチレンシート(PSP=Polystyrene Paper)がその1つです。PSPは発泡スチロールのように発泡剤を含んだビーズを高温蒸気で加熱・発泡させて作るのでなく、GPPSと発泡を行うための発泡剤を混ぜ、押出機で加熱して溶かし、押出機の先端から出てきたシート状を引き伸ばすと同時に発泡させて作ります。発泡後は樹脂の10倍の体積となります。軽くて強く、断熱性・緩衝性にも優れています。製品は空気が90%、原料は10%で、発泡スチロールと同じく省資源という特長もあります。

 

PSPは加熱することで、容易に加工ができるため、この特性を活かして、食品トレーや納豆、カップ麺など食品容器として利用されています。加工方法は、ロール状に巻かれたPSPシートを加熱しながら金型でプレスして成形し、容器だけ切り抜きます。

縮ませて使うシュリンクフィルム

ポリスチレンには縮ませて使うという加工法の製品があります。シュリンクフィルムです。熱を加えることで、収縮するフィルムの性質を利用し、容器に沿ってぴったり収縮させます。シュリンクフィルムを使う包装をシュリンク包装といいます。PETボトルのラベルや調味料などの食品、化粧品、医薬品、生活用品など広い分野で商品の外装ラベルとして採用されています。

 

参考:一般社団法人 プラスチック循環利用協会 学習支援サイト 動画で学ぶ ペットボトル6つの謎

謎3 ペットボトルのラベルはどうやって貼りつけている?

 

シュリンク包装は容器全体を覆うことができるため、商品の保護・異物混入防止の効果があります。開封防止にも役立ちます。カラフルな印刷もできるため、飲料のラベルや調味料のキャップ包装などに利用されます。表示面積を大きくとれることから商品PRに適し、注意書きの必要な薬品でも重宝されています。スーパーなどでみかける複数のヨーグルトや缶詰をパッケージで1つにまとめるなどの使い方もあります。

建材に使われる押出発泡ポリスチレン

建材用に主に使われる発泡ポリスチレンとして押出発泡ポリスチレン(XPS=Extruded Polystyrene)があります。押出発泡とは、ポリスチレンと難燃化剤を押出機で溶かして混ぜ合わせ、発泡剤を圧入混合してからクーラー内に押し出し、発泡剤の瞬時の気化力を利用して発泡させながら製造する方法です。断熱及び気密施工が容易で、屋根や住宅外壁などの断熱材として用いられ、建物としての断熱性能を向上させます。住宅建材としては疊の芯材として利用されています。断熱性のほか、保湿性、防湿性を持ち、畳床からのダニの発生も防ぐ断熱床材畳床として普及しています。