紙とそっくりの合成紙
プラスチックで作られた合成紙
プラスチックで作られた材料の1つに合成紙があります。合成紙は水を弾く、破れにくいなどの特徴があり、選挙ポスターや投票用紙、飲食店のメニュー表、車両のステッカーなど幅広い用途で使われています。
合成紙は、ポリプロピレン(PP)やPETなどのプラスチックを基材に、天然鉱物の無機充填剤が添加されて作られています。PPはプラスチックのなかでも比重が0.9と小さく、軽い素材です。耐薬品性・耐摩耗性・軽量性に優れており丈夫で傷が付きにくい性質を持つプラスチックです。こうしたプラスチックを使った合成紙は水や汚れに強く、耐薬品性、耐摩耗性に優れ、丈夫という特長を持っています。
合成紙は、鉛筆やボールペンなど、筆記用具を選ばず文字を書くことができる筆記特性の良さや、折り曲げてもすぐに開く、票数を数える機械にかけても破れにくい等開票作業時間の短縮につながる特長を生かして、投票用紙として使われています。紙や通常のプラスチック製フィルムと同様にきれいな印刷が可能なため、選挙ポスターや野外広告にも利用されています
石灰石とPPで作られる合成紙も開発されています。クリアファイルやマスクケースなどのノベルティのほか、水に強い、ラミネートの必要がないという利点により、メニュー表やカードなどに使われています。
ポリマー紙幣
プラスチックを原料にしたお札はポリマー紙幣と呼ばれます。1988年オーストラリアで発行されたのが世界初のポリマー紙幣です。オーストラリアでは1996年までに全券種をポリマー紙幣に置き換えています。
ポリマー紙幣の利点の1つが、偽造防止のための透かしやホログラムを入れることが可能となることです。また耐久性が高く、作り直す必要がないため、コストを抑制できるなどの利点もあります。現在、世界ではオーストラリアのほか、カナダ、シンガポール、タイなど20ケ国以上でポリマー紙幣が使われています。
日本の紙幣は和紙に使われる「みつまた」とマニラ麻とも呼ばれる「アバカ」などでできています。
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カナダ銀行が発行したポリマー紙幣(5ドル札)
プラスチックと紙から作られる牛乳パック
スーパーマーケットなどで購入する牛乳パックは厚紙製ですが、牛乳が浸みださないよう、厚紙の両面に低密度ポリエチレン(LDPE)がラミネートされています。LDPEがパックの両面にラミネートされているのは、水分に弱く、水にふやけて柔らかくなってしまうという紙の弱点を補うためです。
牛乳パックの特長
ポリエチレンは厚生労働省の省令で食品包装への使用が認められています。牛乳パックの特長は安全で衛生的、印刷して情報を伝達できる、ガラス瓶に比べ軽いため輸送効率が良く、エネルギーを節約できるなどがあげられます。落としても破れにくい、デザインや容量が自由に選べる、紙の部分をリサイクルできるなどの利点もあり、ガラス瓶と比べて広く普及しています。
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プラスチックと紙の環境性
合成紙は環境に良い?悪い?
合成紙は1968年5月に科学技術庁資源調査会が「合成紙産業育成に関する勧告」 を発表し、森林資源の保護と石油化学の発達による時代の流れから開発が始まりました。環境保護が合成紙の出発点です。紙は大量の水を製造時に必要としますが、合成紙は紙の90%を上回る水を削減することができます。
現在、地球温暖化の原因となるとされる温室効果ガス(GHG)の排出削減は世界的な課題となっています。温室効果ガスの最大のものは二酸化炭素です。日本では、菅義偉内閣の時代に2050年カーボンニュートラル(植物などによる二酸化炭素吸収量と生活・産業活動による二酸化炭素排出量を均衡させること)を宣言し、官民挙げて様々な取り組みが進んでいます。また、資源循環の観点からリサイクル性も素材に求められる機能となっています。
紙の原料は木材パルプです。木材は成長過程で大気中の二酸化炭素を吸収するため、燃やしてもカーボンニュートラルです。一方PPは、地中から採掘した石油を原料としているため、燃やすと大気中の二酸化炭素量が増えるという課題があります。そのため、最近は石油ではなく、植物を原料とした、カーボンニュートラルなバイオプラスチックをまぜた合成紙も登場しています。
紙は環境中に放出された場合、微生物により水と二酸化炭素に分解されます。一方、合成紙は耐食性が高いため、環境に流出すると長く残ってしまいます。このため、使用後の回収と処理を適切に行う必要があります。
牛乳パックのリサイクル
プラスチックでラミネートされた紙パックは、以前は古紙回収に混ぜてはいけない「禁忌品」として扱われ、燃えるごみとして焼却されていました。1980年代からリサイクルへの取り組みが始まり、回収・リサイクルされています。紙パックとは牛乳容器、乳飲料容器、ジュースなどの容器で、内側にアルミニウムがラミネートされていないものを指します。家庭などで洗い、平らに切り開いて乾かし、スーパーマーケットや自治体の回収に出します。再生紙メーカーが、LDPEのラミネート部分を取り除き、厚紙の部分を再溶解して製紙原料のパルプへ戻し、トイレットペーパーなどの製品にリサイクルします。取り除いたラミネート部分は燃料等に再活用されています。
「洗う、開く、乾かす」という手間がかかることがネックとなって、紙パックの回収比率は2022年で39%と古紙の回収の80%に比べると低い水準にとどまっています。
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紙のリサイクル
紙は木材を原料とするパルプから作られるため、森林資源保護を目的に1970年代からリサイクルへの取り組みが強化されています。自治体が行う資源ごみの回収の主なものは紙類です。2022年における日本の古紙回収率は80%、イギリスの92%、韓国の88%に次いで世界第3位です。一方、古紙の利用率は67%で、海外市場にも輸出されています。現在ではカーボンニュートラルの視点で容器・包装への利用が復活しています。
合成紙のリサイクル
合成紙のなかでも大量に使用される投票用紙は、法定の保管期限が過ぎたものをまとめて細断、加熱溶融してペレット化し、マテリアルリサイクルする取り組みが盛んです。輸送用パレットや建築資材のほか、選挙啓発用のうちわなどにリサイクルされています。
また、日本では資源循環戦略の一環として廃プラスチックを原料に戻すケミカルリサイクルの促進に力を入れており、グリーンイノベーション基金という助成金制度を設け、企業のケミカルリサイクルなどの取り組みの拡大・強化を促しています。
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