2017.02.17
水循環の持続可能性と環境影響評価 ―プラスチックとの関わり―
伊坪徳宏先生は、東京大学大学院博士課程(工学)修了後、ライフサイクル環境評価手法構築をライフワークに長年LCAの研究に取り組まれ、今や我が国のLCAを牽引する1人と目されています。また、近年水問題への注目度が高まる中、ウォーターフットプリント(WF)のエキスパートとして多方面で活躍され、2014年のWF国際規格「ISO14046」発効の際には、日本代表を務められました。持続可能な社会形成に向け、数多くの製品・サービス・イベントのLCAによる「環境影響見える化」を推進してこられた伊坪先生に、今回、WFの観点による、水に焦点をあてた講演をしていただくことになりました。
以下はその講演要旨です。
- 目次
-
- 11.世界における水問題の現状 <「環境」からみる2015年の主な動き>
- 2<全球平均気温の変化(1880年~2015年)>
- 3<アメリカ海洋大気庁の報告>
- 4<水ストレス状態の変化>
- 5<米と小麦の水収支>
- 62.WFとは <気候変動と水問題の関係>
- 73.プラスチックに関わる評価事例
- 8<海水淡水化装置>
- 94.国内企業のWF実践例
- ■WF実践塾
- ■A社
- ■B社
- ■C社
- ■D社
- ■環境省2014年WF事例集
- ■E社
- 105.WFの国際規格、実施手順(2014年 ISO 14046発効)
- 11<おむつの事例 回収再生システム構築>
- 12<WFの考え方 原単位法>
- 13<影響評価結果―人間健康>
- 146.WFに関わる最近の動向
講演中の伊坪氏
■講演者プロフィール
伊坪 徳宏(いつぼ のりひろ)先生
1998年 東京大学工学系研究科材料学専攻博士課程修了・卒業、博士(工学)
1998年 社団法人産業環境管理協会LCA開発推進部研究員
(経済産業省LCA国家プロジェクトにてライフサイクル影響評価手法を開発)
2001年 独立行政法人産業技術総合研究所
LCA開発推進部研究員(ライフサイクルアセスメント研究センター研究員)
2003年 独立行政法人産業技術総合研究所
ライフサイクルアセスメント研究センター LCA手法研究チーム長)
2005年 武蔵工業大学(現:東京都市大学)環境情報学部准教授
2011年 東京都市大学 総合研究所環境影響評価手法研究センター長(兼務)
2013年 東京都市大学環境学部教授
1.世界における水問題の現状 <「環境」からみる2015年の主な動き>
最初に、環境分野に関わる人にとって非常に大きな年となった2015年にどういうことがあったか紹介します。まず4月に世界水フォーラムが韓国の大邱(テグ)で開催され3万人規模の参加者を得て、水を中心とする議論が交わされました。そして9月に国連総会で持続可能な開発目標(SDGs) が、またCOP21でパリ協定が採択されました。
同じ12月にはサーキュラー・エコノミー(Circular Economy)に関する欧州委員会(EC)が開かれ、サーキュラー・エコノミーパッケージ全体像に関わるドキュメントが出されています。サーキュラー・エコノミーという言葉は余りなじみのないものかもしれませんが、近時は耳にする機会が増えてきていると思っています。SDGsという言葉も、環境計画の戦略を練るときに、これに対応しているか否かを議論する企業が増えていることもあって、この1年で目にするようになってきました。そして15年で最大の出来事は何といってもパリ協定です。これは1年経たずして本年11月に発効しました。ただ日本は批准に手間取ったため第1回条約締約国会議にはオブザーバー参加ということになってしまいました。残念なことでしたが、環境活動は滞りなく進められていくものと思っています。
<全球平均気温の変化(1880年~2015年)>
過去100年を通じ地球上の平均気温は、10年でおよそプラス0.07℃、100年で0.7℃の動きがありましたが、近年、増加の傾きが急に大きくなっています。特にここ2年は、最高気温を更新し続けており2015年は完全に突出した伸びとなりました。14年はエルニーニョ現象があったのですが、15年は起こっていません。CO2排出が気温上昇に影響を及ぼしているのではとの懸念がさらに強まることになりました。
<アメリカ海洋大気庁の報告>
アメリカ海洋大気庁(NOAA)は、世界で起こった重大な気象異常、事象を毎年公表しています。2015年は、大型ハリケーンの続けざまの北米上陸、メキシコでの大量降雨、南米での猛暑、インドでの強烈熱波、中国での豪雨洪水など大規模な気象災害が次々と起こりました。日本でも、台風襲来の頻度が増えたり、また台風の規模が大きくなったりで、気象の質が変わってきているのではないかと懸念する人の割合が増えています。
異常気象が毎年のように起こっている、その規模は年々大きくなってきているというのが世界の多くの人の認識となりつつあります。ところで、こうした気候変動は水にその影響が現れることが多いのです。例えば大量降雨による洪水、少雨による大干ばつは、要は雨が降ったり降らなかったりしたことによるもので、すべて水と関わっています。気候変動は温度だけでなく、水にも影響を及ぼすのです。水が影響を受けるということは、水に依存する人間だけでなく地域の生態系全体にも影響が及ぶということでもあるのです。
<水ストレス状態の変化>
「水ストレス(Freshwater stress)」という言葉があります。国連環境計画 (UNEP)が、世界の水ストレスがどの地域で発生するか、発生したかを公表しています。水ストレスとは、その地域での使用可能水量のうちどれぐらい取水してきたか、使うかを示すもので、この割合が高いほど水ストレスが強いということになります。
ただでさえ少ない水資源から水を使ってしまうと問題が起こります。国際的には、この割合が2割を超えると水ストレス状態にあるとされています。1995年の時点では、中東、北アフリカ、インド、メキシコ、アフリカ、南欧が水ストレス状態にありました。2025年になると、インドが強い水ストレス状態に入ります。アメリカと中国も水ストレス状態に陥るとされており、注意が必要です。25年には40億人が水ストレス状態に置かれるといわれています。世界人口の半分がこの影響を受けるようになるということです。昨今水問題への関心が高まっているのはそれなりの理由があるのです。
近年「サイエンス誌」 に「水ストレス状態は実はもっと深刻だ」とする論文が掲載されました。2025年どころか、「現時点で40億人が深刻な水ストレス状態を経験している」というのです。経験とは、1年の内1か月でも深刻な水ストレス状態に置かれることを意味しています。例えば乾季のときのみ強い水ストレス状態に置かれる国・地域もカウントされることになります。1か月以上の強い水ストレス状態を経験している人たちの数を全部あわせると人口の半分を超えた40億人になるというのです。
地域別では、中東、北アフリカ、パキスタンはほとんど年中水ストレス状態にあります。豪州も砂漠の多い東部はかなり強い水ストレス状態になっています。アメリカは、中部から西部にかけ年中水ストレス状態に置かれています。中国もインドも同様です。これをみると、我々は水ストレス状態にあるのが普通なのかもしれません。ところで、水ストレス状態にあるアメリカは実際のところどう対処しているのでしょうか。実はアメリカは地下水に頼っています。インドも同様です。近年、世界の地下水をめぐる状況が大きく変わりつつあります。アメリカ西側地域は、常に大干ばつ状態にあるので、地下水を大量に吸い上げています。中央部のコーンベルトでも地下水が活発に汲みあげられています。
<米と小麦の水収支>
日本産の米とアメリカ産の小麦の水収支を調べると、米も小麦も、水を吸い上げ気孔から外に出していく蒸発散量については、それほどの違いはありません。違うのは、日本では雨水がそれなりにあるのに対し、アメリカは中部を境に西側に行くほど途端に降水量が少なくなるということです。降水量が少ないと河川水量も少なくなるため、どうしても地下水頼みということになります。
日本ではある程度の降雨があるのでそれを灌漑用水とあわせて使うことができます。しかも使った水の相当量が河川に戻されています。一部は地下に染み込むので、日本の米作りでは地下水を使うことはあまりありません。図の中の「返流+浸透」というところをみると、米と小麦とでは値が大きく異なっていることがわかります。アメリカでは雨水が極端に少ないため、地下水を使わないとやっていけないのです。これがアメリカの小麦栽培の現状で、水は大きな問題となっています。
このような状況を踏まえ、2012年、アメリカのICA(Intelligence Community Assessment)が、将来、水問題が国の安全にどのような影響を及ぼすか調査し、報告書「Global Water Security」を提出しました。この報告書では、水マネジメントの改善、水関連域への投資が水問題解決策であるとしています。この調査では、農業や水の処理の他に、意外にも電力も俎上に上げられています。まず水問題解決を要するのは農業です。先ほどの米も小麦も農業です。日本では全取水のうちの7割が農業用で、水問題といえばまず農業となります。
これはアメリカも同様です。ただアメリカの場合はここに電力が加わります。発電には大量の水が必要ですが、日本では火力、原子力の冷却には主に海水を使うので、電力に関わる水問題の議論はあまりありません。他方アメリカは、大陸国家なので、内陸での発電では淡水を使うことになります。それで、農業だけでなく電力での水使用も重要な検討事項となるのです。実はアメリカでは、農業より電力のほうが水を多く使っています。日本で主に水を使うのが農業だからといって、よその国も同じだと思ってはいけません。それぞれの地域の実情に沿った水管理を考えることが重要です。報告書では、工業界と水についても触れています。現在アメリカでは地下水をタダ同然の価格で使っていますが、西海岸、西部、中西部などで水不足がさらに深刻化し地下水が枯渇することにでもなれば、小麦価格が高騰することが予想されます。小麦輸入国にとっては多大な影響を蒙ることになります。
ある国が他国の影響を受けるかどうかを、WFの観点でいうと、水を他国にどれだけ依存しているかということになります。つまり、例えばある農産物について、自国の水を使い栽培したものを消費する場合と、他国の水を使い栽培したものを消費する場合の水の割合がどうなのかということです。アメリカは他国にほとんど依存していません。図は2050年における水の海外依存度の将来予測です。どのシナリオをみてもアメリカの依存度は10%程度しかありません。9割は自前で賄っていけるということです。図では注目される二か所があります。一つはMDE、中東です。ここは降水量が少ないので石油より水のほうが高いといった地域です。石油を売って食糧を買うことで国がなりたっています。
水で考えると、自国の水を使わずに海外の水で栽培された農作物を輸入し生活しているということになります。二つ目はJPK、つまり日本と韓国です。50年には、日本、韓国は中東と同じような生活スタイルになるというのです。現在日本のカロリー自給率は4割で、既に6割を他国から購入していますので、この予測は決して的外れとはいえないと思っています。
WFネットワーク(WFN)を構築したユトレヒト大学教授が新しい論文を出し、「英国はいろいろな国に水を頼っているが、水が豊富な国からならまだしも、足らない国から輸入し使っていることは『水の収奪』にほかならない」と主張しています。例えばスペインからはオリーブやブドウ、アーモンド、オレンジを購入していますが、ここは慢性的に水不足の地域です。また、ココア、ラバー、ゴム、パームオイルなどを水不足の深刻なアフリカから購入していますが、このことこそ水の収奪にほかならないというわけです。インドからの購入も同様です。水不足の地域からの輸入は水の収奪そのものであり、相手国に深刻な影響を与えているというのが彼らの言い分です。このことは日本にもあてはまります。この問題に対する適切なアクションを怠れば、日本も国際的に批判されかねません。
2.WFとは <気候変動と水問題の関係>
気候変動問題がクローズアップされています。気候変動による被害が発生しているというのが今や共通のコンセンサスになっています。CO2削減の取り組みだけで気候変動を抑えるということはもう無理だと思っています。被害はすでに発生しているのです。干ばつ、洪水が頻発し、そのスケールはどんどん大きくなっています。これに対応するには、図で示すように「緩和策」と「適応策」の二つを合わせ考えていかねばなりません。気候変動に関わるマネジメントは今後一層厳しいものになるというのが共通の認識となっていますが、いずれにせよ気候変動を管理するにはなんらかのツールが必要です。CO2を管理するものがカーボンフットプリント(CF)であり、水を管理するものがWFということになります。WFは水の管理のみならず気候変動適応策への活用という面でも注目されています。
WFがどのような形でどう情報を提供できるか紹介します。日本で一人あたり1年でのCO2排出量は約10tです。最近私たちはマテリアルフットプリントに沿って、化石燃料、鉱物、バイオマスなどの資源がどれだけ使われているか算出してみました。日本では一人あたり年間20tとなります。この20tを大雑把に1年400日で割ると50kgです。これは一般人の体重ぐらいですので、各人1日あたり50kgの資源を使っていることになります。CO2の場合は10tですから大体1日25kgです。体重半分の重さのCO2を毎日出し続けていることがわかります。
水でみるとどうでしょうか。生活で使われるもののすべてのライフサイクルに注目し水の使用総量を計ってみると1世帯あたりの使用量が4,000m3であるという結果が出ました。このうち7割が食品関係です。農産物生産で使われる水が7割を占めているので、WFによって世帯全体でどうかをみると、穀類、魚介類、肉類、果物など食品由来の水が断然多いことがわかりました。肉類は、日本は少ないのですがアメリカは格段に多くなります。日本で魚介類が多いのは養殖が入っているからです。穀類も米が主食のため2割ほど占めます。
WFNが各国のWFを算出しています。日本は大体1,200~1,500m3。これは一人あたりについてなので、先の1,600m3に近いものとなっています。一方、牛肉だけが影響を与えているわけではないでしょうが、肉消費量の多いアメリカやオーストラリア、南米などでは値が高くなっています。
日本全体でのWFの計算もあります。図をみるとアメリカの木材や中国の穀類、農作物などが続き、日本産ではやっと米が出てきます。育林や上水道などもありますが日本は海外の水に相当頼っていることが確認できます。
アメリカ、中国のWFをみると、食品に関わるところが非常に大きいことがわかっています。上水道からの供給も加えれば、さらに多くの水が食品関係で使われています。また林業にも多く使われています。このような水は概ね国による管理が可能なものです。問題はアメリカや中国は自国で水を賄えるのに対し日本は他国頼みのため万一当該国が水不足となった場合もろに影響を受けるということです。WF管理を行うにあたっては、相手国における水消費を抑えるのにどう貢献するかについて良く考えることも重要です。
次に点滴灌漑について紹介します。点滴灌漑とは、枝分かれしたホースの中を液体肥料が加えられた水が循環し、ポイントとなるところで効果的にその土壌に滴下するシステムです。スプリンクラーに比べ散水量を大幅に減らすことができます。点滴灌漑は中東、特にイスラエルで盛んに行われていますが日本ではあまり普及していません。サトイモを例にとれば、スプリンクラーを用いると大量の水が必要です。もちろん雨水も使われますが、雨水だけでは賄いきれないので灌漑用水も使っています。これを点滴灌漑に変えれば雨水はもちろん使うのですが、スプリンクラーに比べ水の消費量を格段に減らすことができるのです。液肥を効果的に撒けるので収量も増加します。1kgあたりの生産量が増えることで、生産量あたりでみれば、点滴灌漑のほうが更に水の消費量が少なくなります。点滴灌漑は水不足に悩むアフリカといったところに積極的に導入されると有効なシステムです。
この技術を小麦年間生産量1億3千万tの中国で利用すると小麦1kgあたり200 リットルの水を削減することができます。年間水消費削減量では260億m3です。日本全体の年間水使用量が800億m3ですので、中国が点滴灌漑を採用すれば小麦だけでその三分の1の削減効果ということになります。
次に1m3の水消費でどれだけ「損失余命」が発生するかのLCA研究があります。それは、中国を事例として、1m3の水消費により、例えば下痢や栄養失調などでどれだけの損失余命が発生するのかを算出したものです。研究によれば、水消費削減で約2.4万人の損失余命を回避することが可能とのことでした。世界保健機関(WHO)が、下痢を要因とする年間死亡者推計数を年間300~400万人としていますので、水消費削減によってこのうちの約1%削減に貢献できることになります。WFはこういう評価にも活用可能です。
次に植物工場についてです。今年は台風がいくつも上陸し野菜価格が高騰したこともあって、植物工場の役割が注目されるようになりました。植物工場は使った水を浄化し循環使用するので水消費量を大きく減らすことができます。蒸散した水分も回収可能なので屋外栽培に比べ水消費削減につながります。ただCO2の排出量は増えるので、これを抑制するための管理、例えば太陽光発電電力を照明や空調に活用するなどしてCO2発生を抑えるといった工夫が必要です。図は植物工場のプロトタイプのプラントで、露地栽培に比べ水消費量を三分の一まで下げるものです。水消費を大きく減らすのが植物工場ですから、日本よりも中東などで是非使ってもらいたいシステムです。水リスクが高いところでこの技術を導入すれば適応策の一つとして十分使えるものになると思います。
3.プラスチックに関わる評価事例
プラスチックについて触れます。これまでの話から水管理と食糧管理が密接に関係していることをおわかりいただけたかと思います。食品ロスの多寡は水問題に繋がっているのです。プラスチックを使うことで食品ロス削減に効果をあげることができれば、水問題に多大な貢献ができたということになります。これから具体例を紹介していきたいと思います。
鮮度保持フィルムを使えば野菜などの鮮度保持が可能です。普通のフィルムでは野菜は1週間でダメになってしまいますが、鮮度保持フィルムを使うと鮮度が保たれ十日たっても傷むのは3割程度に抑えられます。この包材をうまく使えば野菜のフードロスを大幅に減らせます。このことはロス品に使われていた水の量を減らすということになるのです。鮮度保持効果の高いフィルム包材を使えば使わない場合に比べ、廃棄、食品ロスを十分の一まで下げることができるといわれています。
<海水淡水化装置>
他の事例として海水淡水化装置があります。濾過膜に特殊プラスチックが使われており水浄化に貢献しています。食品は勿論大切ですが生活用水確保も重要です。生活用水を支えるための材料としてプラスチックが重要な役割を担っているのです。水リスクが高まるとともにこれまで生活用水として使えなかった水をどうやって使えるようにするかが大きな課題となっています。
水リスク軽減のうえで海水淡水化は非常に需要な位置付けにあります。日本では福岡、沖縄に海水淡水化の大規模プラントがありますが、世界でも同様な施設があり年間160億m3の海水が淡水化され、健康影響回避に多大の貢献をしています。その効果はおよそ160万人に及ぶといわれています。ところで海水淡水化プラントのコスト評価はどのようなものでしょうか。図中一番上のSWRO、これはRO膜を使った場合です。
次のMEDは多重効用法、下のMSFは多段フラッシュ法による評価です。内部コストつまり実際に支払われている金額は青色、外部コストは橙色で示されています。環境影響の視点でみるとSWROは電気泳動して水を浄化しますが、他の方法は化石燃料を燃やすためCO2、NOx、SOxなどの大気汚染物質が大量に排出されます。これらを含めると、環境影響という観点からいえばSWROが一番効果があるということになります。新たな水の獲得という便益もあるので、気候変動への適応という視点からいって、プラスチックの活躍の場は今後一層広がるものと思っています。
小規模な浄水器でもプラスチック製フィルターが使われており多大な貢献をしています。気候環境によって不良な水を使わざるを得ないところ、例えばアフリカ地域などにこの浄水器を普及させれば、健康影響の低減に貢献することが期待できます。図はある特定の町・地区での評価結果です。地球上には、今でもO-157、ロタウィルス、カンピロバクターなど下痢に直接影響するウィルスを含んだ水をそのまま摂取せざるをえない地域が多くあります。気候変動が激しくなる中、このような地域がさらに拡大することが懸念されていますが、その対策として、浄水器の活用は有効な手段になると思います。特に大腸菌のような大型菌に対しては非常に大きな効果があり、健康影響の削減に繋げることができます。こういう地域こそ導入していって欲しいと思っています。
「緩和策」においてもプラスチックと水との関わりには非常に大きいものがあります。バイオマスプラスチックはサトウキビのモラセス(廃糖蜜)からつくったエチレングリコールを用いて作ります。バイオマスプラスチックを作ることでGHG(温室効果ガス)を1~2割下げることができます。CFの考え方からすれば、廃糖蜜利用によってエチレングリコール生産までの影響を低減できること、100%焼却の場合バイオマス系のものはカーボンニュートラルとなるのでその分の控除があることとで、CO2削減に大きな貢献をしていることになります。ただここで注意しなければならないのは、石油由来のプラスチックは1kgあたり174kgの水を使うが、廃糖蜜由来のバイオマスプラスチックはサトウキビ栽培の際に多くの水を使うため、1kgあたり690kgの水が必要になるということです。
水を使えばその分CO2も増える、つまり水とCO2とはトレードオフの関係にあります。とはいえこれだけのことでバイオマスプラスチックを使うのは駄目というわけではありません。水使用量多=環境影響大ということではないのです。水が豊富にあるところでたくさん水を使っても人に影響はしません。水の多い地域で使うのはよいのですが、水の少ない地域で多く使うと環境に影響を及ぼすことになるので、このあたりをしっかりと管理しなければなりません。地下水依存の地域で、水の負荷を増やすことは問題です。
インド全体でみると、インドはヒマラヤからの地下水が豊富にあるので水ストレスはさほどないのですが、地域によっては水資源に乏しいところも多くあるので、注意が必要です。水が豊富だからといって地下水を大量に取水してしまうと、下流に水資源不足の地域があった場合に、本来そこで使えるはずだった地下水が先に使われてしまったということになるので、水管理においては、下流地域の実情も含めた形でしっかりと行うことが求められます。
この点はブラジルも同様です。ブラジルは高温多雨地域ですが、だからといって水をどんどん使って良いのではなく、上下流の地域ごとの水ストレス状況を確認して行わなければなりません。リサイクルは水の消費に対してはよい影響を与えます。バイオマス由来であろうと石油系由来のものであろうと、PETボトルを回収しPET樹脂として使えば、水の消費量を大きく抑えられます。回収リサイクルはCO2にも水にも良い影響を与えるのです。バイオマスプラスチックを使うことのみに注力せず、リサイクルも強力に進めていけば、CO2、水両方の削減に貢献できます。100%バイオマス由来とすれば、削減効果はさらに上がるかもしれません。現状の3割をバイオマス由来のものにするだけでもメリットがあります。しかしながらバイオマスに変えたらその後は燃やしてしまえばよいのではなく、きちんと回収しリサイクルをすることが大切です。消費者もなるべく排出を抑えていくということと、リサイクルを徹底することがひいては水の削減にもつながるということをよく理解して欲しいと思います。
4.国内企業のWF実践例
WULCAはLCAの国際学会です。SETAC(シータック)という学会があり、2007年ぐらいからその中でWFのグループをつくり研究を始めました。08年にWFNが始まり、精力的な活動をしてマニュアルやデータベースを作りました。こういう動きを踏まえECが規格化に乗り出し、14年に国際規格が発効しました。LCAの規格は、ISO14040や14044ですが、WFについては14046としてすでに発効しています。ルールが整備されてくると、次に評価の段階になります。現在国連開発政策委員会(CDP)が水を対象にした格付け作業を進めています。
日本でもさまざまな企業、団体、組織がWFを活用しています。
■WF実践塾
欧州での進捗状況をみて、我々も「WF実践塾」を立ち上げました。「データベースを提供するので、WFに関心があれば利用して欲しい。その代り情報をいろいろな形でいただきたい」とお願いをしたところ様々な企業が参加してくれました。
■A社
A社は紙の再利用ができる複写機を開発しました。これは、擦ると摩擦熱で消えるフリクションペンのように加熱すると印刷した文字が消え、再度、印刷することができるというものです。
■B社
B社では水使用量を抑えるため、PETボトルの一次、二次成形を一貫して行えるシステムを導入しました。PETボトルは一次成形で作ったプリフォーム(試験管状のもの)に管を入れ、ガスを導入し、同時にプリフォームの周囲を熱して膨らませて作られます(二次成形)。通常一次成形と二次成形は別々の工場で行われているため、二次成形前にプリフォームを洗浄しなければならず、そのため水が必要でした。B社は一次、二次成形を一貫化することでこの洗浄工程を省くことができました。
■C社
C社は、CF視点からの取り組みに熱心な会社です。洗濯で使用する水とほぼ同じぐらいの水が原材料の製造で使われています。ジャケットの原材料は主にプラスチックで、表地がポリエステルやポリエステル主体の生地で作られています。使用量は200リットルぐらいで、衣類の中ではかなり少ない方と思います。
■D社
D社でもWFを取り入れた管理を進めています。ジーンズ一本あたり大体3000リットルぐらいの水を使います。C社のジャケットは200リットルですから、その15倍ということになります。この違いの理由が二つあります。一つは、ジーンズの原料のコットン(綿)は、綿の栽培、綿花摘み、綿・綿糸加工、織布・染色、細断・加工を経て製品になるまでに大量の水を必要とすることです。二つ目は購入後の使用頻度。ジーンズはジャケットより使うことが多いかと思います。当然洗濯頻度も違ってきます。もし毎日洗っていたら洗濯での水利用量も大きくなります。衣料品といっても、WFでみると、化学繊維を使う場合と綿を使う場合とでは大きく異なります。水リスクへの対応を考える上でこうした点もプラスチックの優位性を喧伝するうえでの一つの切り口になるのではないでしょうか。
■環境省2014年WF事例集
環境省もWFを行うということで、いくつかの事例を取り上げて紹介しています。
■E社
E社は、同社で生産している製品すべての水管理を行っており、WF算定のガイドラインをつくりました。その際、私たちが提供しているデータベースを活用してもらっています。
5.WFの国際規格、実施手順(2014年 ISO 14046発効)
WFの国際規格ISO 14046が2014年発効しました。国際規格発効には私も日本代表として関わっています。何度も議論を重ねやっと国際規格ができました。ISO 14040がLCAの規格なので、14040、14044がわかるなら14046もすぐに理解できます。LCAのISOをベースに、水の特殊な事情を加味し評価を加えたものがWFの規格14046と思ってください。14046のポイントは、「量と質」で、「量」は何m3の水を使うかということです。これがWFの基本的な情報となります。また水の汚染もWFの中で評価するとなっていますので、作物栽培で窒素やリンを播きその窒素やリンが地下水に流れた場合や、閉鎖性水域に流れた場合等の影響も当然WFの視野に入ってきます。農薬が外部に漏れ出たとか、工場排水が浄化されずに外部に出たとかいったことも、その影響を考えなければなりません。実はこの点は日本が特にこだわったところです。日本ではインプットで入ってくる水よりも、工場内で使い浄化し外に出すアウトプットの水のほうが質が良いということはめずらしくありません。量だけの評価ではなく、質の向上への努力も評価するべきだとの日本の主張が認められました。14046のWFのドキュメント中には図に示すような六つのゾーンがありますが、うち三つは日本提案で、原案は私が作りました。
WFの国際ルールが決まると、当然それを活用しようとの動きも出てきます。2015年にCDP Waterがスタートし企業や公的機関に質問票が送られ、その回答を基に評価がなされました。CDP Waterの背後には投資機関が存在しています。CDPのカーボンに関わる評価結果は16年にすでに出されており、日本企業では22社がクラスAとして評価されています。CDP Waterは、水もいよいよ検証が始まったということを意味しており、15年の評価では世界の8社がクラスAとなりました。8社のうち3社が日本の企業でこの3社は水に関わる活動を積極的に進めているところです。クラスAを取るには二つのポイントがあります。一つはきちんとリスクの見える化を図ること、自分が関わっている企業内部と外部、サプライチェーンも含めて、水リスクを認識しているかということです。二つ目は一つ目の認識の下、具体的なアクションを起こしているかどうか、アクションがより効果的なものとなっているかということです。この両者が揃って初めてクラスAと認められることになります。
<おむつの事例 回収再生システム構築>
少子高齢化の流れの中、大人用のおむつの使用がこれから大きく増えると予測されます。実際、焼却場では使用済おむつが目立つようになりました。おむつは嵩張るので回収再生をどうするかが課題です。今、回収再生のための実証試験プラントシステムが稼働しています。このシステムでは使用済おむつを大量に出る病院から回収し大型洗濯機で洗浄して、「パルプ」と、プラスチックを多く含む「プラパルプ」とに選別します。選別したパルプは漂白して再度パルプとして使い、プラパルプはRPFにします。これまでそのまま焼却されていたものが、パルプとRPFの原料として使えることになるのです。パルプの再利用で木材資源の消費を抑えられますし、RPFは一般炭の代替燃料になります。これをLCAで評価してみます。リサイクルせずに1tの使用済みおむつをそのまま焼却処分すると、578kgのCO2が発生します。おむつにはたくさんの不織布が使われていますので燃やすとそこからCO2が発生します。汚物の燃焼で生じるものもありますが、それはCO2ではなくCH4とN2Oです。RPF燃料として使うとすれば、CO2発生量は若干減りおよそ500kgということになります。
一方、回収再生システムでは電力を使いますが、パルプのリサイクル、RPFの燃料代替を勘案すると、CO2発生量は366kg、つまり2割5分ぐらいの削減効果が得られます。当然水の使用も減ります。特に効果が大きいのはパルプとして回収するとその分木材から供給されるチップ投入量を減らせるということです。木材は蒸発散があるので成長に非常に多くの水が必要です。回収したおむつから取り出したパルプをきちんとリサイクルすればその分の水を削減することができます。紙おむつからパルプを取り出し洗浄する際に多量の水を使いますが、それ以上の水削減効果が期待できるのです。また焼却に伴い発生する残滓の埋め立て量も減らせるので、このシステム導入のメリットは大きいと思います。
<WFの考え方 原単位法>
今、WF実践へのサポートが私たちの重要な役割の一つとなっています。LCAを進めるときに困るのはデータを集めることです。データが集まっても、そのデータをどう整理し活用するかでも苦労します。整理されたデータベースがあれば、誰でも簡単に評価結果を得ることができるようになります。そこでデータベース構築に取り組むことにしました。例えば紙カップを作る工場がその製品のLCA評価をする場合、紙カップ1個あたり紙をどれだけ、ポリエチレンをどれだけ、インクをどれだけ、電力をどれだけ使うかの情報については、自工場のデータを調べればわかります。
しかし、それでは紙にパルプがどれだけ使われているのか、そもそもパルプに使われているチップはどれぐらいなのか、紙を作るまでに要するエネルギー、発生するCO2はどのぐらいなのか、こういったことはわかりません。でもこの種の情報がなければLCAの正確な評価はできないのです。そこでこういった情報をわれわれが取り集め整理し、提供することにしました。例えば、一原単位の紙が作られるまでにどれだけのCO2が出るのか、エネルギーが必要なのかといった情報を纏めておけば、木材が伐採されチップとなり、パルプを経由して1kgの紙になるまでの原単位がどれだけかが簡単にわかります。後は実際の紙使用量さえわかれば、それらを掛けあわせればよいのです。
私の研究室では、CFにならって、水についてのデータベースを作り、公開しています。化学物質、PRTR物質を400程度、水や木材、土地、そうした温室効果ガス以外のものも含んだものです。原単位のデータベースを作っておけば、原単位の中身を入れ替えればいろいろな評価に使えます。
データベース中の情報の一つ、「水使用量原単位」をみてみましょう。下図の横軸には400種類の生産物が含まれています。左側が農作物、中央部分が工業製品、右側がサービス産業です。縦軸は100万円の製品を作るために使用される水量を示しています。上の方に行けばいくほど値が大きく、一次産業のほうが使用水量の多いことがわかります。水消費総量が青い点で、回収水が赤い点です。日本の二次産業は使用水のほとんどが回収されるので使用量は総量としては多いのですがそのほとんどが再生水であるところに特徴があります。
一次産業は、再生水をほとんど使わず、主に河川水や雨水で賄っています。米に再生水が使われていますが、これは農業機械を使うためで、農業機械を作るときに再生水を使うので、加えられています。再生水はゼロではありませんが、その割合は非常に小さなものです。次の図は指数軸で表されていますで、一目盛ごとに単位は10倍大きくなります。一次産業の水使用量がいかに大きいかわかるでしょう。
データベース中には、プラスチックでは熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂レベルまでの情報を入れていますが、さらに詳細な情報が必要なときはそれに応じたデータベースを新たに作ることになります。都度情報を詳細にしているので、現状精度については改善の余地があると思っています。ただ現状では、少なくとも日本全体のすべての産業種をカバーしたデータベースとなっていますので、これを使ってもらえれば、簡単にいろいろな評価ができると思います。
具体例で考えてみましょう。例えばティーバッグで紅茶1杯を飲むとします。ティーバッグには茶葉と紙とナイロンが使われていますのでその情報に原単位を乗じ、茶葉を栽培するまでの水の消費量と電力を得るまでの水の消費量、同じく紙の水消費量、ナイロンの水消費量を全部加えると、1袋に14リットルの水が使われていることがわかります。飲むために注ぐお湯は1杯あたり0.2リットル程度なので、ティーバッグ1袋が手許に届くまでに使われる水は、口にする量の70倍ということになります。しかも14リットル中のほとんどが茶葉の栽培に使われています。
茶葉の栽培はインドやスリランカで行われていますが、この地域は比較的水リスクの高いところです。我々の生活の中が水リスクと強い繋がりがあるということを知らしめてくれるのがWFなのです。ちなみにコーヒーでは、その量はさらに大きくなり1杯あたりおよそ200リットルとなります。ただしこのことをもってコーヒーが駄目というわけではありません。コーヒーはインドネシアやブラジルなど降水量の多いところで栽培されるので、問題のない栽培なのかもしれません。水の使用量が多いから環境影響が大きいかというと必ずしもそうではないのです。要は水リスクが高いところで栽培されたら影響が大きいということです。紅茶はコーヒーと比べると水の使用量は少ないけれど、水リスクが比較的高いところで栽培されています。ですから同じ1リットルでも意味合いが全く違うのです。意味合いが違うものをどう評価するかが影響評価ということになります。
LCAの中ではインベントリーと影響評価とに分かれていますが、WFもインベントリーと影響評価とに分かれています。例えば温室効果ガスの場合、CO2 1kgとCH4 1kgとでは意味が違うということは常識でしょう。同様に日本で河川水1リットルを使った場合とアメリカで地下水を1リットル使った場合とでは当然影響の度合いが違います。この影響の違いを考慮するのが影響評価なのです。図は産業技術総合研究所が作成したもので、これから読み取れることは、端的にいえば水リスクは極めて偏在性が高いということです。色が濃くなるごとに影響が一桁大きくなっています。水リスクは、一桁インベントリーが違っていると、どこで水を使うかによって結果がひっくり返ることもあります。紅茶とコーヒーの原産地を比べてみると、スリランカは濃い赤なのに対し、ブラジルは比較的薄い赤となっています。
<影響評価結果―人間健康>
水消費に起因する健康被害の感度で影響の違いを考慮した図です。10倍差があるケースでも影響を考慮するとほとんど同じ数字となることがあります。量が少ないから影響が小さい、大きいから影響が大きいというのではなく、どこで、いつ使われるかということが、水の影響を考えるとき重要なポイントです。
次に水と気候変動に関わる健康影響の結果を紹介します。気候変動によるよりも水消費による影響のほうが大きいといえるのではないでしょうか。農業における環境管理はCO2も水も重要であるということがわかります。ちなみにCO2で評価すると、コーヒーと紅茶、ほとんど変わりません。
6.WFに関わる最近の動向
最後に最近の動向を紹介します。今、欧州委員会(EC)は、各地域で水がどれだけ使われるとどれぐらいの影響が出るか評価しうる「推奨モデル」作成を進めています。推奨モデルの内容はほぼ確定しています。これが確定されると、次にECが中心となって推進している環境フットプリントに活用されることになります。加盟国政府が特定調達製品を選択する際は、環境フットプリントを採用してほしいといっています。ECが指令として出せば、各国の国内法に直ちに反映されます。ECは、グリーン調達のうえで、環境フットプリントを使うことを考えているのですが、環境フットプリントにはその要素としてWFの考え方が必ず含まれています。CFとWFは必ず入るのです。ECの環境フットプリントの議論は、食品に関わるワーキングで当然「水」は入ってくると思います。他の工業製品でどこまで入ってくるかはわかりませんが、多くのパートで水が取り上げられることになると思います。
ところでこの環境フットプリントは、最初は14の環境問題を評価するものとして、化学物質、酸性化、富栄養化などいろいろなものが取り上げられました。かなり遠大な計画でしたが、産業界からの批判もあり、今は適正規模に絞ろうということになっています。大体、3~4ぐらいの項目になるのではと思います。またECは、更にシンプルな結果を示そうとしています。例えば今日の話の中でも気候変動と水の話をしましたが、CO2と水は、バイオマスプラスチック生産のような場合にはトレードオフの関係になります。その場合、どちらがよいかという議論が当然起こります。ECは消費、政策意思決定者などいろいろな立場の人が簡単に意思決定できるような情報を提供するので、判断材料として使ってもらいたいとの立場です。しかしトレードオフの議論になると、これだけではどちらにしたら良いかはわからないので、ECとしては、よりわかりやすい統合化した判断基準を示したいということになります。ECは、例えばCO2の影響と水の影響とを合わせたら、合計でどうなり、その結果ランクがAなのかBなのか、それともCなのかが簡単にわかるような重み付けをして基準を一本化したいとの目論見を持っています。その中にはもちろん水もCO2も含まれています。本当に統合化できるか、最終的にどこに落ち着くのかはわかりませんが、一つの指標にはなると思います。指標にするためには経済評価を活用するケースが増えてきています。
経済評価については、今ISO14008として議論がなされています。環境マネジメントシステム14001の直下に14008を作り、そこで企業の環境マネジメントシステムをお金で図る場合はこうやりましょうというルールを作ろうというものです。その具体化として自然資本連合と呼ばれる組織が昨年スタートしました。UNEPや、WWF、WBCSD、WRIといった錚錚たるメンバーが加盟しています。これらの組織は、「GHGプロトコール」や「スコープ3」のルールを作ったところです。そういうところが環境影響を金額で計ろうとしています。これを「環境の外部性」といいますが、水が市場の中で価格付けされてこなかったことに対する問題意識が強まっているのです。計ることは難しいのですが、やろうという気運は確かに高まっています。
この動きの中には水消費に伴う経済的な影響を評価する事例も出てきました。自然資本連合が作られる前に、非常に強い影響力を持つTrue cost社、TEEBという生物多様性をお金で計ろうというところが、世界の活動において、どの活動が経済的な影響を与えているかのランク分けをしました。それによると影響が一番高いのが東アジアの石炭火力発電による温室効果ガス、次いで北アメリカの牛の農業用の土地利用、三番目が東アジアの鉄鋼プラントからの温室効果ガス。四番目が南アジアの小麦栽培による水となっています。この他アジアでは、八番目に南アジアの稲作による水。十番目の南アジアのWater Supply(上水道)と、GHGや土地利用、生態系の影響と並ぶように水の影響が示されています。いずれも食に関わるものか浄水に関わるものです。つまりいかに食品ロスを削減するか、いかに浄水を再生利用するかということが、水の影響を削減するのに重要なポイントになるということが読み取れます。このあたりでプラスチックが貢献できるところが数多くあるのではないか、世界から高い評価が得られるチャンスがあるのではないかと思っています。
プラスチック産業としては、水問題に対し、守りではなく、攻めの活用をするべきだと思います。貢献というところで、プラスチックの有効性をもっと訴えるべきです。削減面でリサイクルは非常に貢献度が高い要素なので、このところでもプラスチックの役割を示すチャンスがあると思います。サーキュラー・エコノミーによる資源循環の貢献を通じ、世界にうまく働きかけるように活用いただけることを期待しています。
これで私の話を終わります。ご清聴ありがとうございました。
※ 本文掲載の図、表、写真等はすべて伊坪先生が作成された資料を使用させていただいております。
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