2024.01.29

海外リサイクルレポート:スイス・デンマーク

海外リサイクルレポート:スイス・デンマーク

概要と基本情報

概要

日報ビジネス社による企画(現地視察2023年4月27日~5月2日) 「スイス・デンマークにおけるCO2排出削減及び廃棄プラスチック再資源化等実態調査」に参加しました。スイス、デンマークはともに循環型経済構築を目指すリサイクル先進国でありながらペットボトル以外のプラスチックのリサイクル率の低さという課題を抱え、日本と共通した状況にあります(エネルギーリカバリーを推進してきた背景あり)。欧州の掲げる循環型社会形成、プラスチックリサイクル率>70%(目標)等への捉え方や、プラスチックごみ削減及びCO2削減の取組状況など、プラスチック廃棄物管理に焦点を当てた内容にてご報告します。

基本情報

【一般廃棄物管理に関する日本・スイス・デンマークの類似性/相違性について】

上図はOECD加盟各国の一般廃棄物処理状況(2018年)を示したものですが、日本・スイス・デンマークはともに廃棄物焼却エネルギー施設(KVA)による「エネルギー回収を伴う燃焼」の占める割合が大きいという特徴があります。スイスでは、可燃ごみは必ずKVAで処理されるため、結果として単純焼却ゼロ・埋立ゼロとなります。デンマークでも似ており、埋立が数%程度あるものの、単純焼却はゼロとなります。

Plastics Europeによるプラスチック廃棄物処理に関するデータ(2020年)によると、スイスでは単純焼却・埋立がゼロ、リサイクル率28%となります。デンマークでは、単純焼却はゼロ、埋立2%、リサイクル率40%となります。参考までに、当協会「プラスチックのマテリアルフロー図(2020年)」からは、日本では単純焼却が8%、リサイクル率(マテリアルリサイクル+ケミカルリサイクル)が24%となります。

上図は欧州における固形燃料(SRF: Solid Recovered FuelおよびRDF: Refuse Derived Fuel)の輸出入状況を示したものです。スイスとデンマークは欧州の中でも固形燃料への依存が少ないという共通点があります。今回訪問先両国の廃棄物関連施設等で様々なお話を聞かせていただいた中で、固形燃料に関する話題は出てきませんでした。両国ともに再生可能エネルギー化が進んでおり石炭依存が少ないためか、日本の場合と違って「石炭代替」の発想が無いように感じられました。

スイスについて

【スイス事情】

国土面積は九州と同等、人口は870万人(九州の6割)です。スイス連邦、直接民主制(26州2,100自治体)であり、国民投票年4回の他に、州・自治体レベルの住民投票が頻繁にあります。ごみ収集ルールの詳細は投票で決められますので、狭い国土に2,100通りのごみ収集ルールがある、という状況となります。(因みに、日本の場合は1,741市区町村毎のごみ収集ルールとなります)。スイス西部のジュネーブには国連本部が置かれ、国際会議が盛んな土地柄もあり、住民の環境意識は高いと言えます。国土は山が多く、水資源(水力資源)が豊富ではあるものの、それでもエネルギー資源が不足するため、一部は原子力発電で賄っています。その原子力発電の依存から脱却することを目指し、再生可能エネルギーの普及が進んでいます。スイス連邦としてカーボンニュートラル2050の目標を掲げるなど、気候変動対策や環境保全などエコロジー観点で高い視座をもちます。一方で経済性とのバランスも重視しており、廃プラスチック処理に対しては無理なリサイクルや埋立よりもエネルギー回収が経済的に有利との考えのもと、焼却エネルギー施設によるエネルギー回収を認めています。また、補助金事業として国内で色々なものが試されるといった特徴があります。

上図に示すように、スイスには国内で29ケ所の焼却エネルギー施設(図中の「赤い炎」の大きさは焼却施設の規模感を示します)があります。因みに日本の一般廃棄物焼却施設数は1,028(2022年3月時点)となっていますので、効率よく配備されていることが言えます。今回見学した施設(Renergia、中央スイス、写真右上)はスイスで最も大きく、施設内に巨大蓄熱タンク(写真右)を備えております。この蓄熱タンクは発電と熱供給(地域暖房ネットワーク向け)を昼夜や夏冬の需要に合わせて調整する役割を持ちます。

スイス全体としてエネルギー供給開発を進めており、エネルギー供給量は年々増加しています。スイスの電力構成は、55%が水力、38%が原子力、7%が再生可能エネルギーとなります。廃棄物焼却エネルギー施設で得られる分は再生可能エネルギーの一部としてカウントされます。
(日本では、水力発電は再生可能エネルギーにカウントしています)

【スイス企業・クライムワークス社のCO2分離回収設備(KEZOごみ焼却プラントにて見学)】

チューリッヒ近郊(Hinwil)のKEZO焼却施設ではクライムワークス社のCO2分離回収設備を見ることができました。冷熱により大気中の二酸化炭素の吸着/脱着を繰り返すことでCO2回収するものです。見学時には実証実験(補助金事業)が終了して設備稼働していませんでしたが、稼働時にはCO2を用いた温室トマト栽培(CO2濃度を通常より高く設定することで栽培促進)を行なっていたようです。稼動には過大の電力が必要となり、スイス国内では採算が合わないため、現在はアイスランド(地熱発電が利用でき、極寒なので冷却に対して電力が不要)に拠点を移して実証実験を継続させているようです。

いずれにしても、今はCO2分離回収設備などの技術開発をカーボンニュートラル2050に向けた切札と考えているようです。

スイスでは埋立地のスペースが急速に不足しつつあります。居住地近くに用地確保しようにも近隣住民反対で進まないため、打開策として「埋立地マイニング」を検討中のようです。過去の廃棄物を資源化利用しつつ、新規埋立スペースを確保することで、用地確保問題を解決しようと試みております。

【スイス: Inno Recycling社 (巨大廃棄物回収施設 兼 プラスチックリサイクル施設)】

チューリッヒ郊外(Eschlikon)のInno Recycling社にて、まず廃棄物回収施設を見学しました。ここでは、市民/事業者が日常的に不用品(ビン、缶、紙、PETボトル、衣類、プラスチックなど)を持参します。通常は居住地近くで35Lゴミ袋を1枚300円で購入し一般廃棄物として自治体回収しますが、ここに持ち込むことで無料回収されるため、その分が利用者として「お得」ということになります。近隣住民4,000人に対して利用者は13,000人/年のようです。上の写真は利用者が車で次々とやってきては、壁穴から不用品を投入して去っていく様子となります。壁穴の向こう側は、次の写真にようになっています。

この施設では様々なもの(60品目)が回収分別されますが、プラスチックはさらに120種に分別されるようです(計180分別となります)。
以下、分別後に集積されたプラスチックの幾つかを写真掲載します。

ここは集積場としての機能(ある程度の選別したものを販売出荷)もありますが、押出機を通してペレット製造あるいはインフレーションフィルム成形することで製品出荷販売も実施しています。

乾燥・袋詰め保管(→販売出荷)

【スイス: スーパーマーケットの製品および表示(マーク)】

スイスの街中のスーパーマーケットにて、プラスチック製品の表示について観察しました。食品容器については、概ね「普通ごみ」表示が付けられています。つまり、一般廃棄物として廃棄物焼却エネルギー施設で処理されることになります。

パン包装についてはプラスチック使用量が比較的少なく、野菜・果物は量り売りか最小限のプラ包装といった状況でした。牛乳ボトルについては、「プラスチックボトル」表示と店頭へ戻すよう注意書きがなされていました。この牛乳ボトルは、スイス国内のプラスチックリサイクル施設に行きます。

【スイス:スーパーマーケットでの店頭回収】

店内バックヤード付近では、ペットボトルとプラスチックボトルの回収ボックスが用意されていました。

【スイス: 街中などでのごみ回収ボックス】

市街地・観光地に限らず、至る所でごみ回収ボックスを見かけました。それでも、「プラスチック」専用の回収ボックスを見かけることはありませんでした。

デンマークについて

【デンマーク事情】

国土面積は九州と同等、人口は580万人(スイスの870万人より少ない)、コペンハーゲン都市圏で130万人となっています。デンマーク王国、立憲君主制であり、98の基礎自治体からなります。スイス連邦のような2,100自治体毎の複雑なゴミ収集ルールにはならず、統一化しやすいと言えます。電力構成として、太陽光と風力で約50%、さらにこれらに加えたバイオマス等を含む再生可能エネルギーは80% (2020年)に達します。2030年には再生可能エネルギーにより全土の電力消費を賄える水準に達する見込みとされています。石油自給率100%、地下資源もあります。1985年に原子力発電所の永久放棄が決議され、現在は原発が一基も存在しません。廃棄物焼却(エネルギー化)に対しては肯定的で、製品を作る限り「焼却ごみ」は必ず出る、より衛生的・効率的・先進的なあり方を考え実践しているようです。

ヒエラルキー( Landfill <Energy < Recycle <Reuse <Avoid Waste; リサイクルよりもリユースやAvoid Wasteにこだわる傾向、産学官連携で色々なものが試される))を意識し、CO2削減やネットゼロに関しては、スイス同様にCCS(CO2分離回収貯蔵)を切り札と考えているようです。また、小国のため、例えばケミカルリサイクルに関しては隣国(ドイツ、ノルウェー等)での越境処理も視野に入れているようです。

産業廃棄物由来プラスチックのリサイクルは進んでいます。一方、一般廃棄物由来プラスチックの多くは、スイス同様に「普通ごみ」扱いで廃棄物焼却エネルギー施設にて処理されてきました。しかし、2019年以降はプラスチック資源化を進めており、リサイクル率向上目指しています。画像にあるように、従来の「普通ごみ」表示とは別に「プラスチック」表示も新規作成されました。

【デンマーク: 最新型廃棄物発電施設】

都市部にお洒落で楽しい「ごみ処理施設(近隣人口60万人分)」が新たに建てられました。アマーバッケは世界で最も衛生的かつ高効率な焼却エネルギー施設であると同時に、レクリエーション施設(通称CopenHill)として、グラススキー場,登山コース、ボルダリング壁、カフェなどを有します。「山が無い」とされるデンマークの首都コペンハーゲンでスキーや登山が可能となりました(2019年~)。国内外から訪れる観光客を誘致する設計であり、「ごみ処理施設」という負のイメージを完全払拭しています。 こうなると、もはや「ごみではなく資源」と感じられます。
プラスチック等の一般廃棄物を発生場所で処理することでCO2削減化しており、コペンハーゲンとしては、2025年までに「世界初のカーボンニュートラルな首都」を目指しています。

総工費は約700億円で、収入としてスチーム[約60億円/年]・売電[約10億円/年]なので、ランニングコストを勘案し十数~数十年で償却される良い投資案件と考えられています。
従来は迷惑施設(NIMBY:Not in my backyard)と考えられてきたものを、発想転換により歓迎施設(PIMBY:Please in my backyard)に仕上げることができた、という点が素晴らしく、各国他都市にコンセプト展開されることが期待されます。 

【デンマーク: リユース・リサイクル施設紹介 Sydhavn Recycling Center】

上の写真は公営リユース・リサイクル施設(Sydhavn Recycling Center)の概況で、入口がリユースショップ、場内が資材分別場となっています。

屋内は工作器具類が完備され、無料で使うことができます(メンバー登録制)。例えば、自分で持ち込んだものや入口で販売しているリユース家具などを修復することなどが出来ます。ビジネスインキュベーションとしてフリーオフィスエリア(机・椅子・PCモニター等)を設置しており、建築家やデザイナー、学生などが活用しているようです。あくまでも市のテストラボで、利益は無いとのことでした。

【デンマーク: 街中などでのごみ回収ボックス】

街中の色々な場所でごみ回収ボックスを見つけることができ、回収品目「プラスチック」もあることを確認できました。「プラスチック」は「食品飲料カートン」や「金属」と同時に回収されることがあるようです。

【デンマーク: スタートアップ企業等による紹介(1) 素材判別技術】

デンマークは産学官連携事業が盛んで、スタートアップ企業が多数存在し、様々な新規開発が行われています。プラスチックリサイクル関連では、例えば素材判別技術が年々進化しています。今では、ビッグデータから学習したAIがゴミ形状を認識することで瞬時に素材判別を行えるようになりました。

【デンマーク: スタートアップ企業等による紹介(2) 電子透かし技術】

あるスタートアップ企業では、電子透かし技術の実用化が検討されています。上写真の例では肉眼では見えない透かしが容器包装全体に施されており、スキャナーにより透かしに登録された情報を瞬時に読み込むことができます。容器包装が切れていたり欠けたりしていても確実にスキャンできます。素材分別に活用することで、プラスチックのリサイクル性向上に繋げることが出来ます。

【デンマーク: スタートアップ企業等による紹介(3) 分別回収支援アプリ開発】

別のスタートアップ企業からは、分別回収支援アプリの開発が紹介されました。スマホで製品をスキャンすると、予め登録された自治体のルールに従った分別方法を教えてもらえるようです。今は実証実験段階ですが、デンマークから北欧地域へ、さらには欧州全体に広げたい、とのことでした。 

【デンマーク: スタートアップ企業等による紹介(4) リユース ~ Avoid Waste の事例 】 

(Plastic Change社提供資料を元に作成)
さらに別のスタートアップ企業では、Avoid Wasteの観点から以下のような小さなプロジェクトを数多く積み重ねてきたようです。
・オンラインショップ配達袋(回収と再利用)
・スーパーマーケットで量り売り(再利用可能なカップに入れて販売)
・パスタ包装(一部で中身が見える窓をプラではなく紙に)
・ヨーグルト容器のラベルレス化(商品情報はボトル本体プラ内部に印字)
・ピザ箱(返却箱に返却する、購入店舗でなくてもOK)
・きゅうり包装(一本ずつフィルム包装するのではなく、食用可能なコーティングで傷付防止)
・ビール缶(6本パックを包装ではなく糊で接着)
・清涼飲料(ブラジルでボトル規格化、回収システムで同じボトルを使用)
・清涼飲料(緑色ボトルを無色透明ボトルに)
・清涼飲料(カスタマイズ化、ドリンクバーのようにミックスジュースをボトリング)
・紅茶バッグ(コンポスト可能素材に変更)
・コーヒー容器(ふたを開けた際に本体に残る部分を除去)

現地スーパーマーケットやコンビニに行ってみると、確かに脱プラ・減プラが進んでいる印象がありました。