自動車に使われるプラスチック

プラスチックは私達の生活に必要不可欠な素材です。例えば自動車。自動車は鋼板を中心とした金属でできているイメージを持たれるかも知れませんが、金属同様、プラスチックも数量、種類、使用分野ともに多く使われています。自動車は約3万点の部品で成り立っていますが、プラスチックはその3分の1を占めているとされています。
調査によれば、自動車に使われるプラスチックは、世界全体で、2018年には1,000万トンを超えました。さらに2030年には1,400万トン程度まで拡大する見通しとなっています。

自動車1台あたりのプラスチックの使用量は、コンパクトカーで約150kg~200kgとされています。車種によって違いがありますが、自動車の総重量に対して10%程度の比率です。一方、体積比でみると、プラスチックの使用比率は約50%を占めています。プラスチックを使えば使うほど、自動車が軽くなります。自動車部品のプラスチック化の取り組みは40年以上前から進められ、2019年の東京モーターショーではモーターなど一部を除いてほぼ全面的にプラスチック化することで、軽自動車より軽い総重量850kgを実現したコンセプトカーも展示され、話題を呼びました。
自動車の安全性を維持しながら軽くして、省エネルギーを実現するのがプラスチックの役割です。省エネルギーは日本が目指すカーボンニュートラルな社会を実現するための軸となる取り組みです。
自動車のどこにプラスチックが使われている?
図は、自動車のどのようなところにどのようなプラスチックが使われているか、表したものです。図の右上から時計回りに①シート/シートベルト(使われる樹脂:ポリエステル、ポリウレタン)②ドアトリム(ポリプロピレン)③燃料タンク(ポリエチレン)④車載電池(ポリエチレン、ポリプロピレン)⑤タイヤ(合成ゴム、ポリエステル、ナイロン)⑥ワイヤーハーネス(ポリエチレン、塩ビ樹脂)⑦バンパー(ポリプロピレン)⑧ランプ(ポリカーボネート、アクリル樹脂)⑨エアバッグ(ナイロン)⑩ハンドル/インパネ(ポリウレタン、ポリプロピレン)-となっています。車載電池、燃料タンク、タイヤなどのほか、エアバッグなど、私達の安全に欠かせない部分にプラスチックは使われています。

自動車の軽量化に役立つプラスチック
今では電気自動車などガソリンや軽油(ディーゼル)を燃料としない自動車が増えましたが、かつては自動車の燃料はガソリンや軽油に依存していました。そのガソリンや軽油は原油を精製して作られます。日本は原油のほとんどを輸入しています。なかでも中東地域で産出される原油への依存度が高く、2023年度でみるとサウジアラビア、アラブ首長国連邦など中東地域からの輸入は輸入原油全体の90%を超えています。この中東地域で1973年~1980年にかけて2度の紛争*¹が起こり、この結果、1バレル2.59ドルだった原油価格は10倍以上に跳ね上がり、日本では物価の上昇率が20%を超えるインフレとなり、「石油ショック」と呼ばれる経済危機に見舞われました。
石油ショックはそれまでの好景気を一変させ、時代の転換点になったとともに、エネルギーの安定供給の重要さを世の中に再認識させた出来事でもありました。
日本では①石油の安定確保を図る②貴重な資源である石油を大切に使う③エネルギー源の多様化を進め、石油依存度を下げる-という3つの施策が打ち出されました。
原油の値上がりはガソリンの値上がりに直結しました。自動車業界では省エネルギーが新たな問題となり、燃費の向上に直結する車体の軽量化が重要なテーマとなりました。
自動車の車体を構成するパーツは鋼材やガラス製の材料が使われてきましたが、より軽いアルミニウムやプラスチックを使うことで、軽量化が進みました。車体の軽量化は省エネ対策だけではなく、1970年代に進んだ、排ガス規制への適応にも貢献しました。車体が軽くなることで燃費が良くなり排気ガスの量も減りました。
近年では炭素繊維で強化されたプラスチック(炭素繊維強化プラスチック:CFRP)が使われているバックドア、ボンネットフード、プロペラシャフト等の採用も進んでいます。
*¹1973年にイスラエルとアラブ諸国の間で発生した第4次中東戦争と1978年に起こったイラン革命とその後のイラン・イラク戦争
自動車の外装で使われるプラスチック

自動車の外装は衝突時の被害を最小限に抑える、加工が容易で汎用性が高いことなどが求められます。プラスチックは私達を事故から守る外装材の様々な部品で使われています。衝突時の衝撃を和らげるバンパーはポリプロピレン(PP)にエラストマーやフィラーなどを混ぜた複合材が一般的です。これは軽量で成形性に優れ、耐衝撃性や剛性などの機能性が高いという特徴があります。
ランプカバーには透明性や耐衝撃性などの特徴を持つポリカーボネートやアクリル樹脂が使われています。ポリカーボネートの可視光線透過率は最大90%とガラス並で、強度はガラスの約250倍です。
タイヤは合成ゴムが使われています。合成ゴムはブタジエンを主原料にし、耐摩耗性、弾性、強度というタイヤに求められる性能をバランスよく持った材料です。タイヤの形状を保持するための補強材であるタイヤコードにはポリエステルやナイロンなどが使われます。
自動車の内装で使われるプラスチック

自動車の内装部品にはどんなプラスチックが使われているか、見ていきます。私達が坐るシートは、外側がポリエステル、内側がポリウレタンで出来ています。ポリエステルはPETボトルや衣料に使う繊維と同じ成分で、耐久性や耐熱性が高く紫外線などで日焼けや劣化がしにくいなどの特徴があります。シートのクッションにはポリウレタンが用いられます。シートは車体が受ける路面からの振動を吸収し、運転中の体を支えるなどの性能が求められます。優れたクッション性を持つ軟質のポリウレタンフォームが主に用いられます。
ポリウレタンはハンドルにも使われます。ハンドルに使われるのは硬質のウレタンフォームです。運転中、手が滑りにくく、耐久性にも優れています。
インパネやドアトリムにはポリプロピレン(PP)が使われています。PPは軽量で機械的な強度に優れているという特徴があります。ドアトリムには発泡したPPも使われます。
エアバッグにはインフレーターから発生する高温に耐え、強度に優れるナイロン66の糸が主に使われています。ナイロンにはこのほか、ナイロン6や12などの種類がありますが、エアバッグに求められる性能を満たすのがナイロン66です。
自動車のエンジンルームに使われるプラスチック

内外装部品に加えて、プラスチックは自動車の心臓部であるエンジンルームにも使われています。燃料タンクに使われるプラスチックは高密度ポリエチレン(HDPE)が使われています。金属製に比べて、耐久性や形状自由度、軽量化などの特徴があり、欧州では燃料タンクの90%以上がHDPE製になっています。日本でも2000年以降普及が進み、2016年では50%程度だったHDPE製が、2017年には約60%、現在は80%を超えていると言われています。
EV車やHEV車に搭載されるリチウムイオンバッテリーのセパレーターには、ポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)が使われています。セパレーターは正極と負極を絶縁する部材です。PEやPPはセパレーターに求められる加工のしやすさや電気絶縁性を備えています。
現在、自動車は電動化が進み様々な電子部品が使われていますが、ここでは耐熱性、電気絶縁性に優れるフェノール樹脂が使われます。またコネクタ類にはナイロン、PBT(ポリブチレンテレフタレート)などのエンジニアリングプラスチック、PPS(ポリフェニレンサルファイド)、LCP(液晶ポリマー)などのスーパーエンプラが使われています。ナイロンは成形性や耐摩耗性、絶縁性、PBTは電気特性や耐薬品性、PPSは耐熱性や機械特性に優れています。LCPは高い耐熱性、剛性・弾性などを持っています。コネクタに必要な特性を考慮し、用途に適したプラスチックが選ばれます。
自動車に使われるプラスチックのリサイクル
日本の自動車の年間廃棄台数は2022年で274万台にのぼります。自動車メーカーではリサイクルしやすい車の設計、廃棄処理業界ではリサイクルの高度化など、環境問題に対応する動きが進んでいます。
現在、自動車に使われるプラスチック部品のうち、バンパーやダッシュボード、ドアトリムなど大きめの部品はプラスチックの種類ごとに分別回収し、マテリアルリサイクルしているものもあります。
自動車部品としてリサイクルするためには、金属などの異物や種類の異なるプラスチックを徹底的に除去し、プラスチックの種類によって分別する必要があります。Car to Carのリサイクルは、まだまだ技術面、コスト面での課題があるものの、進んでいます。
使用済み自動車からは様々な機能部品、有用金属が回収されます。現在、解体・破砕の段階で、重量比で約8割の資源が回収されています。さらに破砕業者での資源回収後に残ったASR(Automotive Shredder Residue=自動車破砕残渣)もガラス、鉄、アルミが回収され、マテリアルリサイクルにかけられ、残ったウレタンなどの樹脂はサーマルリサイクルとして熱回収されます。これにより、日本の廃棄自動車の有効利用率は90%を大きく超えています。
昔からある鉛蓄バッテリーは金属類、プラスチックに分解してそれぞれの素材がリサイクルされています。
プラスチックをリサイクルする手法には、もう1つケミカルリサイクルがあります。これは、廃棄自動車から回収した使用済みプラスチックを化学的に分解して原料に戻し、新品と同等の品質まで再生する技術です。自動車部品を含む種々のプラスチック製品のケミカルリサイクルは、化学メーカーなどがこれまで以上に取り組んでいます。
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