2020.02.15
「循環型社会」を実現させる発泡スチロール -発泡スチロール協会-
2018年、使用済み発泡スチロールの91%がリサイクルされました(※)。使った後の発泡スチロールはそのまま捨てられてしまう、もう二度と使われることはないと思っている人が多いかもしれませんが、リサイクルの面からみると、使用済み発泡スチロールは実はトップクラスの優等生なのです。
では発泡スチロールのリサイクル率はどうしてこれほど高いのでしょうか。どのようにリサイクルされているのでしょうか。
いやそれ以前に、そもそも発泡スチロールとはいったいどのようなものなのでしょうか。またどのようにつくられているのでしょうか。
発泡スチロールというと、おそらく市場の魚箱や果実・野菜箱、スーパーの白色トレイといったものを思い浮かべるのではと思いますが、発泡スチロールが使われるのはそういったものだけなのでしょうか。
発泡スチロールについて考えてみると、知っているようで意外と知らないということに改めて気づかされます。そこで今回は発泡スチロールについてより深く掘り下げていってみたいと思います。
※リサイクル率=リサイクル量/回収対象量
- 目次
■そもそも発泡スチロールって何?
発泡スチロールを幅広く捉えると、製法や用途によって、EPS(ビーズ法ポリスチレンフォーム)、PSP(発泡スチレンシート)、XPS(押出発泡ポリスチレン)の3種類に分類できますが、一般的には、発泡スチロールといえばEPS(Expanded Polystyrene)を指すものとみられているようです。EPSは原料であるビーズを発泡させてさまざまな製品を成形するもので、生鮮食品の輸送箱(魚箱、果実・野菜箱)や家電・OA機器の緩衝材、住宅建材など幅広い分野で使われています。表面に発泡ビーズの模様(網目状の模様)があるのが特徴です。
■発泡スチロールはどうやってつくられるの?
EPSの原料は、発泡剤(ガス)が入った直径1mm程度のポリスチレンの粒(ビーズ)です。このビーズを蒸気で加熱し、ガスを膨張させることで数十倍に膨らませます。50倍発泡体の場合は、製品全体(体積)の98%が空気、原料ビーズが2%ということになりますので、省資源性に大変優れた製品ということができるでしょう。
①発泡剤(ガス)が混入されている原料ビーズに蒸気をあてると、ガスが膨張し、原料ビーズが膨らみます。
②膨らんだ原料は、元の原料ビーズの数十倍に発泡し、大量の空気を含んだ「発泡ビーズ」となります。
③発泡ビーズを目的の形状の金型に入れ、もう一度蒸気をかけることでさらに膨らんだビーズ同士が熱でくっつき金型どおりの製品となります。
■発泡スチロールの特性
発泡スチロールは、98%が空気であるという特性を活かして、断熱性、緩衝性の機能を持った製品をつくることができます。また軽くて成形しやすいこと、安価での成形が可能で経済性に優れることなどから、日常の幅広い分野で使われています。
①断熱性
発泡スチロールは発泡ビーズの集合体ですが、この発泡ビーズは「小さな空気の部屋(独立気泡)」で構成されています。この独立気泡内では空気の対流が少ないので、熱が伝わりにくくなります。そのため、長い時間にわたり、発泡スチロールの容器に熱いお湯をいれれば暖かく、氷水を入れれば冷たくしておくことが可能となります。
漁港から市場に送られる魚箱は、昔は木で作られていましたが、木の容器では氷がすぐに溶けてしまうため遠隔地への移送が困難でした。発泡スチロール製の容器が出現してからは魚を新鮮なまま運ぶことが容易になりました。
②緩衝性 空気の部屋がある独立気泡は衝撃吸収性に優れているため、家電製品や精密機器などの包装材・緩衝材として使うことができます。割れ物を包むとき、エア緩衝材をよく使いますが、発泡スチロール製品も同様に衝撃をガードすることができます。
上の写真は発泡スチロールの上に生卵を落とす実験です。発泡スチロールが衝撃を吸収するため生卵が割れることはありません。バレーボール状の大きさの発泡スチロールをくりぬいて生卵を封入したものを、元バレーボール日本代表に思い切りアタックしてもらったことがありますが、生卵は無傷のままでした。
③易成形性
発泡ビーズを金型に入れ蒸気で熱することで金型どおりの製品を容易に成形することができます。
④経済性
発泡スチロールは製品のほとんどが空気であり、原料はその数十分の一に過ぎません。しかも軽量なため、中身を入れたものの輸送コストを抑えることができます。
■発泡スチロールが使われている製品
①農・水産分野
発泡スチロール製魚箱は、1966年頃に丸干しやアジの開き等の加工用魚箱が開発され、一つの市場を形成しました。また同じ頃に、それまで木箱が主流であったカツオ、イワシ等の鮮魚箱についても、木材価格の高騰への対応、回収・処分時の手間解消への要求、鉄道からトラックへの流通手段の劇的変化などにより、穴あき発泡スチロール魚箱が徐々に使用されるようになりました。
さらに鮮魚・海水・氷を入れたまま箱ごと消費地へ運ぶことができる蓋付魚箱が開発されたことで、需要が急拡大しました。農業分野でも、リンゴ箱に代表される農産箱としての需要が増大しました。現在、農・水産容器分野では国内の発泡スチロール市場の5割を超えています。
(2018年出荷実績 容器分野 7万t (54%) )
②緩衝材・部材分野
1978年に農・水産分野に追い抜かれるまでは、緩衝材・部材分野が発泡スチロール需要トップの位置にありました。緩衝材分野については、近年の家電メーカーの海外生産シフトやブラウン管テレビから薄型テレビヘの移行などで厳しい競争が続いていますが、部材分野では、軽量性や緩衝性能、断熱性を有する素材への要求ニーズが高まっています。
(2018年出荷実績 緩衝材・部材分野 4万t (31%))
③建材分野(EPS断熱建材)
日本と異なり海外では、EPSの主な分野は建材(断熱材)向けが中心となっています。これはEPSの断熱機能を使うもので、省エネやCO2削減に絶大な効果をもたらすことができます(※)。勿論日本でも第一次南極越冬隊・昭和基地のプレハブに使われるなど、建材分野用途での使用については60年以上の実績を誇りますが、海外に比べればまだまだ開拓の余地ある分野です。
このような中、近年、地球環境負荷低減の観点からのEPS断熱建材活用に注目が集まるようになってきています。特にここにきて住宅の断熱性能強化の支援制度が強化されたこともあり、EPS建材の需要は拡大傾向にあります。EPS断熱建材は、基本形であるボード状のもの以外にも、使用部位に対応した曲面や凹凸などニーズに応じた成形が容易にできることが強みです。環境問題への意識が高まる中、断熱性能の低下が極めて少ないEPS断熱建材が高く評価されています。
※EPS 建材を使うことで大きなCO2削減効果を得ることができます。戸建て住宅で30年間断熱材を使用した場合、断熱材を使用しない戸建て住宅(無断熱住宅)と比較すると、一戸当たり(札幌)のエネルギー削減量は760,781MJ、CO2排出削減量は47,148kg-CO2で、年間1戸当たり1,571kg-CO2のCO2排出量を削減できます。
④土木分野
1985年に発泡スチロールブロックを土木用として使うEPS工法がノルウェーから導入されました。これは発泡スチロールブロックの軽量性、自立性、耐水性、耐圧縮性を有効に活用した、従来の土木工事の常識を破る画期的なものです。国土の狭い日本においてより有効といえ、弱地盤上の盛土、拡幅、擁壁の裏込めなどへの拡大が期待されます。
(2018年出荷実績 建材+土木分野 2万t (16%)
■発泡スチロールの安全性
発泡スチロールの原料であるポリスチレンは炭素と水素のみで構成されている物質なので、これを燃やすと、二酸化炭素(CO2)、水(H2O)になります。
■発泡スチロールのリサイクル
発泡スチロールはその優れた製品特性により、生鮮食品の物流容器、家電製品の緩衝材、建築用断熱材など、幅広い用途で使われています。使用済み発泡スチロールは、主にマテリアル、サーマルの方法でリサイクルされ、そのリサイクル率は91%という高いものとなっています (2018年)。
■高リサイクル率をもたらすリサイクルの仕組み
大部分の発泡スチロールは、卸売市場やスーパー・デパート、飲食店、電器製品などの販売店、機器メーカーの工場などで断熱容器や緩衝材としての使命を終えます。これらの使用済み発泡スチロールは事業系廃プラスチックとして次のように処理されていきます。
・卸売市場
卸売市場には毎日、発泡スチロール箱に入れられた大量の魚、農産物が運び込まれてきます。競りにかけられた魚、農産物は競落人に引き取られていくのですが、その後には大量の発泡スチロール容器が残されることになります。
これをリサイクル業者に引き渡せばいいのですが、発泡スチロールはほとんどが空気なので容器のままでは無駄に空気を運んでいることになってしまいます。そこで市場では使用済み発泡スチロール箱の容積を減らすための減容機(熱、圧力などにより魚箱、農産物箱をポリスチレンの塊にするもの)を使い、リサイクル業者に引き渡しやすいようにしています。
・電器製品販売店、機器メーカーの工場
これらが使用済み発泡スチロール自ら処理するのは大変です。そこで発泡スチロール協会(JEPSA Japan Expanded Polystyrene Association)では、排出事業者や資源再生事業者のリサイクルが円滑に進むためのシステム構築の一環として、例えばJEPSA会員企業が運営するリサイクルプラザ「エプシー・プラザ(※)」への支援を行っています。
JEPSAではこの他にも、家電メーカーとリサイクルの協力体制の構築に関する覚書を締結し、家電包装材のリサイクルにも取り組んでいます。 一方、家庭から排出される使用済み発泡スチロールは、2000年4月から容器包装リサイクル法の対象として、自治体により、「その他のプラスチック製容器包装」として分別回収されることになりました。回収された発泡スチロールは、特定事業者(発泡スチロール製造事業者および発泡スチロール利用事業者)が費用を負担して、再商品化されています。
※「エプシー・プラザ」
JEPSAでは、会員企業の大半が工場の一部に処理機を設置し使用済み発泡スチロールのリサイクルに取り組んでいます。このJEPSA会員が運営するリサイクル拠点を「エプシー・プラザ」といっており、現在全国に百数十ヶ所あります。これらのうち、一部は発泡スチロールの中間処理業の許可を取得し、家電小売店など小口排出者のリサイクル支援も行っています。
■終わりに
このように発泡スチロールは90%を超える高いリサイクル率となっています。しかしながら、発泡スチロールの環境負荷軽減への貢献はそれだけにとどまりません。例えば、発泡スチロールを使うことで、魚、農産物などの容器軽量化による流通エネルギーの削減、冷凍・冷蔵機能活用によるエネルギー使用の節減に役立っています。また断熱建材の使用は冷暖房エネルギーの使用量を減らすことに繋がります。これらは、なかなか実感できないところですが、環境を考えるうえでよく理解しておくべきところです。
■発泡スチロール協会
https://www.jepsa.jp/
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