2007.07.16
セメント産業はリサイクルの草分け的存在 ─廃プラスチックのサーマルリサイクルは天然燃料の一部を代替─
セメント産業は、古くから廃棄物を燃料などの補助材として利用してきた実績がありますが、ここ20年ほどの間に、原料や燃料の一部として積極的に活用する動きが目立ってきました。
その背景には、天然資源の利用抑制と地球温暖化ガスの排出抑制、廃棄物のリサイクル資源化という動きに呼応した技術開発があります。
こうした動きに対応して、原料の一部に石炭灰、汚泥、焼却灰、高炉スラグなどの利用(代替原料=マテリアルリサイクル)をはじめ、燃料の一部として廃プラスチックをはじめ廃タイヤ、廃油、廃木材などを補助材としてのサーマルリサイクル(代替燃料)に企業ぐるみで取り組んでいるのが太平洋セメント(株)です。
今回は、セメント工場としてはあまり例のない内陸に立地しているため、原燃料の搬入、製品出荷に不利ではないかとの思惑を見事に利点に変え、県内で発生する焼却灰約6万3,000トンをはじめ、廃プラスチックなどによるサーマルリサイクルに取り組んでいる熊谷工場を取材しました。
焼却灰のセメント原料化事業の立ち上げ
太平洋セメント(株)は、秩父セメント、小野田セメント、日本セメントの3社が合併して誕生(1998年10月)した国内最大のセメントメーカー。その販売シェアは36.3%(05年実績)で、2位のメーカーを大きく引き離しています。
今回取材しました同社熊谷工場は、東京オリンピック開催の2年前、1962年に当時の秩父セメント熊谷工場としてスタートし、1973年には、世界で最新鋭のロータリーキルン(回転焼成炉)を導入しました。
1980年に第二次オイルショックの余波を受け、重油の価格高騰で燃料を石炭に転換しましたが、その2年後には大量に発生する熱を回収した廃熱発電設備を導入するなど、効率化を進めてきました。
一方、廃棄物利用も1980年代から積極的に進めています。
その結果、1998年には、都市ごみ焼却灰のセメント資源化実証試験プラントを稼働、2001年7月には事業化プラントとして稼働させました。
今では、ごみ問題やエネルギー問題など社会的課題への対応を含め、その事業は急速に拡大、「彩の国」(埼玉県の愛称)ゼロエミッション計画の一翼を担う規模になりました。
廃プラスチック、廃タイヤ、焼却灰、高炉スラグなども原燃料に
現在、さまざまな産業から廃棄物として排出される量は年間約4億トン。家庭から出される一般廃棄物は約5,000万トンで、その多くが最終処分場で埋め立て処分されています。
これらの廃棄物(産業廃棄物、一般廃棄物)を合わせた4億5,000万トンのうち、およそ7%に当たる3,000万トンを資源循環・再資源化ルートに乗せ、リサイクル資源として利用しているのが、実はセメント産業なのです。セメント1トン当たり400kgと定めた業界目標を達成したことによる成果とも言えます。
こうした業界の動きとともに、熊谷工場で最も力を入れているのが都市ごみ焼却灰とばいじんのセメント資源化事業。家庭から出されるごみを各自治体の焼却場で燃やし、発生する灰と集塵機で回収したばいじんをセメント原料の一部として利用するもので、焼却灰の処理に困っていた地元の熊谷市と廃棄物をなくそうというゼロエミッションの構想を持つ埼玉県との3者共同研究をスタートさせたのは1998年(平成10年)のこと。熊谷工場内で実証試験を開始、2001年7月に事業化プラントも完成し、受け入れ対象地域を埼玉県内の市町村へと拡大しました。その回収量は年間6万3,000トン。この量は埼玉県の年間排出量の約4分の1にもなりますが、この焼却灰やばいじんは「灰水洗システム」によって金属や異物の除去、ばいじんに含まれる塩素を水洗除去するなど適正に処理(詳しくは囲み記事を参照)したあとセメント原料の一部として利用されています。
この焼却灰やばいじんの引き取りに関しては埼玉県ほか関東全域からも注目を集めるようになったとのことです。「埼玉県は、ごみの減量化に取り組んでいるが、県下70市町村のうち42の市町村分の焼却灰とばいじんを太平洋セメント熊谷工場に引き取ってもらっている。県内の最終処分場の延命につながっている。その他プラスチック類を分別している市町は県南部に多い」と話すのは埼玉県資源循環推進課。
灰水洗システム
焼却灰に含まれるダイオキシン類を1,450℃の高温焼成工程で安全に分解する。(旧厚生省の構造基準:燃焼ガスの温度が800℃以上の状態で2秒以上滞留)
焼却灰に混入している金属類や異物を前処理設備で除去、ばいじんに含まれる塩素は水洗設備(50℃の温水で1時間攪拌、塩素を溶出させる)で除去(脱塩率97%以上)したあと、セメント原料の一部として利用する。
水洗設備から発生する塩素を含む排水は、排水処理工程で重金属を取り除き、排出基準をクリアーした状態で下水道に排出するこの工程では、キルン排ガスをPH調整に用いる等、太平洋セメント社独自の技術が駆使されている。
廃プラスチックについては、主として企業から排出されるシートやフィルムなど軟質系で、今まで急増傾向にあったものの、ここに来て横ばい状態が続いているとのことです。
搬入される廃プラスチックの荷姿は、梱包(ベール状)されたものが多く、これを破砕機にかけ10mmくらいのチップ状にカット、補助燃料として仮焼炉(サスペンションプレヒーター)、ロータリーキルン内に圧力の高い空気を利用して吹き込み、サーマルリサイクルされます。廃プラスチックは、石炭並みのカロリーがあることから、高い燃焼温度を必要とするセメント産業では欠かすことのできないリサイクル資源になっています。06年度の実績は、セメント産業全体で36万5,000トン、太平洋セメントでは8万7,000トンになっていますが、今後は可能な限り引き取りエリアの拡大を検討する予定だそうです。
その他、サーマルリサイクルの資源として利用されているものに、廃タイヤ、廃パチンコ台、廃油、廃木材などがあります。
このような廃棄物がセメント工場で活用できる理由をまとめますと、以下のようになります。
セメントの主成分は酸化カルシウム、二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化鉄で、これらの成分を含む廃棄物をセメント原料の一部として利用する
ロータリーキルンでの焼成工程で、可燃性廃棄物を燃料の一部として利用する
可燃性廃棄物の燃え殻は、セメント原料として取り込まれるため二次廃棄物は出ない
焼成温度が1,450℃と高温のため、ダイオキシン類などの有害化合物はロータリーキルン内で分解される
などです。
セメントの製造工程
まず原料工程では、原料である石灰石、粘土、ケイ石、酸化鉄を適切な成分比率になるよう調合したあと原料粉砕機で乾燥・粉砕します。
この工程は、代替原料として火力発電所から排出される石炭灰、製鉄所から排出されるスラグ、浄水場や下水処理場から出る汚泥や焼却灰などをマテリアルリサイクルしていることは意外と知られていません。これらの廃棄物には、セメントの主成分である酸化カルシウム、二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化鉄をかなりの割合で含んでいることが分析した結果から明らかになり、代替原料として利用されるようになりました。
次は焼成工程。高さ80mのサスペンションプレヒーターの上部から投入された原料は、次第に落下して国内最大級のロータリーキルン(直径5.5m、長さ100m)に導かれ、キルン内の高温(入口部1,000℃、出口部1,450℃)によって化学反応を起こしてクリンカになり、キルンを出たあと一挙に空気冷却で120℃に下げられます。
このあとは仕上工程ですが、クリンカに石膏をおよそ3%混ぜてセメント粉砕機で粉砕して完成ということになるわけです。
この三つの工程のうち、原料工程はマテリアルリサイクル、焼成工程はサーマルリサイクルという二つのリサイクルをほぼ同時にこなすプラントであることが分かります。
廃棄物ゼロを目指す熊谷工場
熊谷工場は、年間200万トン以上のセメントを製造しているにもかかわらず、従業員は約100人。徹底した自動化、省力化による製造システムを取り入れているからです。
製造されたセメントのおよそ70%は普通セメントで、10%が早強セメント(早く固まり、しかも高い強度が得られるため橋梁工事などに使われる)、残り20%が高炉セメント(高炉スラグをリサイクル資源として普通セメントに混ぜたもので、ダムや港湾工事に使われる)となっていますが、出荷形態はタンクローリー車にセメント粉のまま積み込み、生コンクリート工場などに運搬されるのがほとんどだそうで、袋詰めの出荷は5%以下とのことです。
セメント産業界は、古くから他産業の副産物をセメント品質調整のための添加材、混合材として利用しており、いわばリサイクルの草分け的存在。これに対して、近年は新しいリサイクル資源に一層の関心が寄せられるようになりました。この関心の高さに応じて、新しい技術がセメント製造の各工程に投入されています。
天然資源を節約するとともに適正な処理費をそれぞれ排出元に負担してもらうことは、製造コストの低減やリサイクル資源の原燃料化事業の継続を支える重要なシステムと言えます。
とは言っても、廃プラスチックを含めて何でもリサイクル資源として利用するという考え方ではなく、高品質な製品を供給するという社会的責任が伴うのだから一定のチェックを入れるのは当然、との立場を明確に示していました。
熊谷工場が目指すのはゼロエミッション、それは石炭使用量の削減に伴う温暖化ガスの発生抑制、残り少ない最終処分場の延命、有害物質の無害化、そして可能な限り廃棄物そのものを再資源化する、「このことが地球環境の保全と資源循環型社会の実現に結びつく」と、熊谷工場の担当者は答えてくれました。
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