2010.08.16

持続可能な未来に向けて~ 「生活者から見た3Rの現状と展望」

持続可能な未来に向けて~ 「生活者から見た3Rの現状と展望」

循環型社会にむけて、市民・行政・企業の連携はますます重要になっています。しかし、3Rやプラスチックリサイクルなど、方向性が議論されている問題について、企業側と市民が意見交換する機会は不足しています。
そこで、7月7日、プラスチック処理促進協会は、ジャーナリストで市民環境団体の代表も務める崎田裕子さんに「生活者から見た3Rの現状と展望」をテーマに講演していただきました。

3Rは誰でもできる

わたしが環境問題に関心を持ち始めたのは20年ほど前からです。当時、産業界は環境を破壊しないモノづくりに取り組み始め、行政は環境関連の仕組みづくりに着手していました。

私は、仕事で環境問題や環境教育に取り組むにあたり、まず、生活者として、自分が日々出しているごみの量をチェックしてみました。

そこで、自分がいかに多くのごみを出しているかを認識するとともに、ごみというのは減らそうと思えば減らせる、そのためには3Rを実践すればいいんだと確信しました。

 

自分で3Rを実践したところ、最初の年のごみと資源の総量を10とすると、1年間で、ごみが1割、資源が3割になり、残りの6割はリデュース・リユースによって減らすことができたのです。

はじめは、私は少しやりすぎたのではないかと思いましたが、ほかにもそういう実践をしている人がたくさんいると知り、これは特別なことではないと思って、「誰でもできるごみダイエット」という本を書きました。循環型社会は自分の足もとから作ろうと呼びかけたのです。

NPO元気ネット、環境ビジネスウィメンのとりくみ

NPO元気ネット、環境ビジネスウィメンのとりくみ

NPO元気ネット、環境ビジネスウィメンのとりくみ

「持続可能な社会」には、低炭素社会、循環型社会、生物多様性という3つの要素が必要であり、それを実現するには経済(技術革新)と社会(暮らし・仕事)で市民・行政・企業のパートナーシップが大切です。

また、国際的視野を持ち、社会システムとして定着させていくという視点も必要です。そのような人づくり、地域づくり、国づくりが活力ある社会の実現にもつながります。

 

こうした視点で取り組んできたのが「環境ビジネスウィメン」で、美しい自然を守ることと、地域の食文化、雇用・産業を統合し、町おこしにつながる環境活動を進めています。

環境ビジネスウィメン

「環境ビジネスウィメン」では、自然と共生し、地域特産の商品開発を行い雇用も増やす環境ビジネスを展開している

「NPO法人 持続可能な社会をつくる元気ネット」(NPO元気ネット)では、全国の地域環境活動から毎年「市民がつくる環境のまち“元気大賞”」を選びます。

同ネットは、この10年で全国の約400の地域グループのゆるやかなネットワークとなりました。

NPO元気ネットは、暮らし・地域から出るごみ(環境負荷)に、生活者・NGOとして責任を持ちたいということで、3R、CO2、化学物質、電気のごみの問題にさまざまな形でかかわっています。

つくる環境のまち”元気大賞”

つくる環境のまち”元気大賞”

2060年東京ゼロエミッションの覚悟が必要

東京都は2年前に家庭から出るプラスチックを不燃ごみから「埋め立て不適物」に変え、これにより最終処分場の残余年数は30年から50年に延びました。

このときの東京都廃棄物審議会に私も入っておりましたが、「埋め立て不適物」とは、リサイクルできるものはリサイクルしてくださいという意味であるにもかかわらず、一般には「プラスチックごみは燃やすんだ」という誤解が生まれました。

マスコミへの正しい情報の伝え方をしっかりすべきだったと考えています。

 

ごみ処分場が50年もつ、といっても全国平均では15年で満杯になりますから、周辺から東京の処分場を使わせてほしいということがあると想定しています。

2060年までには一般廃棄物をゼロエミッション化する覚悟が必要です。企業なら将来目標を持つことは当たり前のことですが、行政は、そのような年限を限ったゼロエミッションという考え方は持っていません。

CO2削減目標だけでなく、廃棄物問題にもっと危機意識を持つべきだ、ということが東京都の廃棄物の審議会でも話し合われています。

循環基本法の成果と課題

一方、環境省は、2003年に第1次循環基本計画を、2008年に第2次循環基本計画を策定しました。見直し作業を経て、2012~3年ごろには第3次循環基本計画ができるだろうといわれています。

第1次循環基本計画では3Rに、リデュース、リユース、リサイクルという優先順位を設定したことが重要な点でした。

第2次循環基本計画では、温室効果ガスの排出削減という計画を出したことが重要な点でした。温室効果ガスのうち5%はごみから出ていますが、製品を作るところからごみ処理までの全過程でCO2を削減していけば、5%以上の削減が可能だと思います。

また、自然との共生という意味でも、バイオマス資源の活用など、再生可能なエネルギーを活用することが掲げられました。

 

3Rに関しては、すでに容器包装リサイクル法、家電リサイクル法、建設、食品、自動車リサイクル法ができていますが、これからさらに、リサイクルシステムの効率化や、希少金属の回収など、リサイクルを推進するとともに、リデュース(発生抑制)、リユースを強化するための仕組みを作る必要があります。

また、これは市民、事業者、行政、専門家、教育などさまざまな人の協働・連携で取り組む必要があります。

 

この基本計画で特に重要な視点として出てきたのが地域循環圏という考え方です。資源の個性と地域の個性を合わせて、どのくらいの規模で循環システムを考えていけばよいか、また、国際循環も考えながら日本の循環システムを作る必要があります。

「共に創る」環境型社会 第2次循環基本計画(2008年)

「共に創る」環境型社会 第2次循環基本計画(2008年)

ごみと資源の総量をどう減らすか

第2次循環基本計画には、私が提案して目標を追加してもらったものがあります。

それは、ごみと資源(事業系分も含め)の総排出量を10%削減するという、10%削減の目標です。

最初は一人一日の家庭ごみ(資源を除く)排出量を20%削減するという目標だけだったのですが、これではたくさん使ってリサイクルすればいいということになり、資源とごみの総量を減らすことにつながらないからです。

第2次循環計画に追加された発生抑制目標

第2次循環計画に追加された発生抑制目標

例として、横浜市と東京の日野市を比較してみます。横浜市では2001年から資源回収を徹底することにより、資源回収分が倍増し、ごみの30%削減という目標を5年も早く達成できました。これ自体はすばらしい成果ですが、ごみと資源の総量は11%削減にとどまりました。

 

これに対して日野市では、ごみ回収の有料化と資源回収を同時に行いました。

すると、ごみが1年で約半分に減っただけでなく、ごみと資源の総量が1年間で25%減ったのです。

家庭ごみ回収の有料化が、ごみ減量に熱心な一部の消費者だけでなく、市民全体の消費行動を大きく変えた結果だと思います。

3Rをくらしに活かし、発生抑制効果を

3Rをくらしに活かし、発生抑制効果を

地域循環への取り組み

容器包装リサイクル法の見直し議論の中では、レジ袋の削減・有料化の議論がありました。中国、韓国、台湾と同じように法律で有料化を決めるべきだという意見から、レジ袋の問題は容器包装リサイクル法にはなじまないという意見まであり、結局、レジ袋の有料化は法制化されず、発生抑制は各事業者の努力を経済産業省に報告するということになりました。

私たちは各事業者からの報告通知書が消費者に見えるような形にしてほしいと経済産業省に要望しています。

 

また、レジ袋については、大手スーパーなどの事業者と行政と市民が、各地に3R推進協議会をつくり取り組んでいます。

私たちはレジ袋を目の敵にしているわけではなく、暮らしの中で物を大切に使うという意識を高めるきっかけづくりになると考えています。

 

事業者側からは、レジ袋の有料化はサービス低下と受け取られ、売り上げに響くという声も多くあります。

こうしたことからも、住民団体、事業者、行政が一緒になって、地域全体でレジ袋削減の制度作りをすることが重要になっており、各自治体にできている3R推進協議会が果たす役割は大きいと考えています。

協働による3R実現

協働による3R実現

地域連携の3R協議会でインセンティブづくり

地域連携の3R協議会でインセンティブづくり

3R推進協議会が取り組んでいるのはレジ袋だけではありません。

PETボトルやアルミなどの缶のリサイクルでもカードにポイントがたまり、交通などさまざまな用途に使えるしくみができないかという「3Rエコポイント」の構想なども、地域循環構想の一つとして各地で検討されています。東京都足立区では、PETボトルの自動回収マシンでポイントが付き、たまったポイントをおもちゃの修理や食品リサイクルなど、地域のいろいろなことに使えるシステムを作ろうと、「あだちエコネット事業」が取り組まれています。また、岐阜県では「ぎふ・エコライフ推進プロジェクト」が始まり、西濃地区の25のNPO団体、約800の小売店が2市9町村でレジ袋のポイント制で「住民の森を創ろう」という運動をしています。

 

このように、3Rにさまざまな立場の人が協働で取り組むことにより、試行錯誤はありますが、町の活性化や環境保護に生かしていこうという流れができてきました。

 

課題は3Rをいかに定着するかということです。

 

リデュースの課題としては、レジ袋・マイバッグから、暮らし全体にリデュースを広げることです。

リユースの課題としては、リユースカップで、イベントのごみゼロ化を進める、マイボトルを持って観光地巡りをするなど、地域全体の取り組みを増やして、ライフスタイルとしてリユースを定着させる必要があります。

市民の生活を見直した時、リサイクルはかなり進みましたが、リデュース、リユースの取り組みは遅れています。

事業者がリサイクル製品を作っても、消費者はそれを買わないのでは循環が成り立ちません。

こうしたアンバランスを解消するためにも、企業と行政・住民が連携する必要性を感じます。

プラスチックは効率的な処理を

リサイクルでは、効率的な分別回収をするということが非常に重要だと思っています。特にプラスチックの効率的な分別・処理は大きな課題です。

 

市町村が回収したPETボトルが一時期、アジアに流出してしまい、日本のリサイクル業者は廃業に追いやられるという事態がありました。

自由貿易なら市況に影響されるのも仕方ないかもしれませんが、リサイクルの仕組みは日本の中に作っておかないと、将来、日本で使ったものも国内ではリサイクルできない状態になってしまいます。

次の循環基本計画の見直しのときには、国内でリサイクルする仕組みをどう確立するかが大きな問題になると思います。

 

また、その他のプラスチックについては、容器包装リサイクル協会に特定事業者が支払うお金が年間約400億円で、その93%が廃プラスチックのリサイクルに使われている現状があります。

マテリアルリサイクルとケミカルリサイクルを半々の割合にするということが決まりましたが、効率的なリサイクル、CO2削減という二つの面から、ケミカルリサイクルを増やしたほうがよいのではないか、ということが国の審議会でも検討されています。

 

私は製品プラスチックの扱いについても検討すべきだと思っています。ひとつは、熱回収だけでなく、マテリアルリサイクルできるものはリサイクルルートに乗せることを考えてもよいのではないかということ、もうひとつは、製品プラスチックと容器包装プラスチックを一緒に回収・処理する方法はないかどうか、仕組みも含めて検討すべきだということです。

制度設計をする場合は、製品プラスチックのほうの事業者がどのくらいのリサイクル費用を負担すべきか、自治体は回収コストをどう集めるのか、また、製品の価格にどう影響するのか、など難しい点もあります。

作る人、使う人、集める人、みんなが考えなければならないと思います。

 

循環という視点からみると、市町村単位で分別方法や処理方法が違う今のシステムは決して理想的とは言えません。

国全体で将来的なビジョンを持ち、市民のライフスタイルまで変わっていくような大きな方向性を議論し、経済と環境を関連づけて、良い方向に回転させていくような仕組みが必要です。

市民・行政・企業のパートナーシップがますます重要になるでしょう。

崎田裕子さんのプロフィール

<略歴>
ジャーナリスト・環境省登録の環境カウンセラー。1974年、立教大学社会部卒業。株式会社集英社で11年間雑誌編集を務めた後、フリージャーナリストに。
生活者の視点で社会を見つめ、近年は環境問題、特に「持続可能な社会・循環型社会づくり」を中心テーマに、講演・執筆活動に取り組んでいる。環境省登録の環境カウンセラーとして環境学習推進に広く関わっている。
2001年度、首相の私的懇談会
「21世紀『環の国』づくり会議」メンバー
2003年度、環境大臣の懇談会
「環境と経済活動に関する懇談会」メンバー
2004年度、環境大臣の懇談会
「環境ビジネスウィメン」メンバー

<現在の主な公職>
環境省
「中央環境審議会」委員
「政策評価委員会」委員
経済産業省(資源エネルギー庁)
「総合資源エネルギー調査会」委員
経済産業省
「産業構造審議会」臨時委員
国土交通省
「国土審議会」委員
「社会資本整備審議会」臨時委員
他、環境分野の委員を多数務めている。